日産先進技術 電気自動車(EV)

これが電気自動車に搭載されているリチウムイオン電池。何枚も重ねられたラミネート構造のパックをひとつの電池として、それをさらに何十個も重ね合わせたものだ。

電気自動車…ハイブリッド車…エコペダル…日産が露出する先進技術

 日産の広報部ってすごいなぁ、と思った。世の中、ガソリン高騰で盛り上がっているドンピシャのタイミングで電気自動車(EV)やハイブリッド車、エコペダル(燃費向上支援)などの先進技術をドンドン露出する。通常、先進技術というとギリギリまで秘密っていうのが今までのパターンだった。ところが、これをあえて見せることで一般ユーザーの日産へのイメージアップにつなげようという試みだ。まあ、先進技術といっても、数年後の近い将来に実用化できるレベルにあるものが中心なので、見せられるほうもなんだか馴染みやすいのがポイントだ。それも旬ネタ(今回はガソリン高騰がテーマか)を出されると、新聞などのメディアは尻尾を振って飛びついてくる。こうやって見せられてしまうと、ジャーナリストとして色々見ている我々でも日産スゴイ! って思ってしまう。研究開発する技術者たちも、日本中のジャーナリスト相手に仕事の成果を発表できる場があるということに対して、非常に満足度が高いようで社内的にもモチベーションアップになっているようだ。うーん、策士だな、日産広報部。

リチウムイオン電池を制した者がEVを制する!

 さて、日産は2010年までに電気自動車を発表すると宣言している。電気自動車やハイブリッド車の核となるは、やはり電池(バッテリー)だ。現段階でもっとも実用性の高い高性能電池といわれているのがリチウムイオン電池。現行のプリウスなどに積まれているニッケル水素電池に比べ、スペースや出力やエネルギー密度などで圧倒的優位にたてるというものだ。そのため、日産だけでなくトヨタやホンダなどの電気自動車や燃料電池車もリチウムイオン電池を積極的に採用している。ここしばらくの間は、リチウムイオン電池を制したものが電気自動車を制するといった状態。
 そんなリチウムイオン電池だが、すでに我々の生活の中ではベーシックなものになっている。身近なところなら、携帯電話やPCの電池などがそうだ。すでに、こんなに身近な電池がクルマに搭載するとなると大騒ぎするのかというのは疑問だろう。当然のことながら、クルマには携帯電話やPCには比べ物にならないくらいの出力やエネルギー密度をもつ電池を積まなくてはならない。そんな大きな電池に発熱という大きな問題が加わる。携帯電話やPCを長時間使用していると電池部分のカバーでさえかなりの高温になっていることを感じたことがないだろうか。発熱するというのは、リチウムイオン電池の特性。携帯電話やPCの中でも、一部の不良品電池が以上発熱をして電話やPCが燃えるという事故がまれに発生している。もしも、発熱に対して安定していない電池を使うとどうなるか? そう、よくも燃えるクルマが出来上がってしまうのだ。安全性という意味では、大きなマイナス要因なのだ。

日産先進技術 電気自動車(EV)
ハイパーミニなどに搭載されていた円筒型のリチウムイオン電池。円筒型ゆえに、電池中心の熱の放熱性やスペース効率にも問題があった。
日産先進技術 電気自動車(EV)
ラミネート構造のパックをいく層にも重ね合わせて電池ができている。
日産先進技術 電気自動車(EV)
ラミネート構造のパック。ひとつひとつが薄いため放熱効果は高い。

 

素材研究まで行う!日産 バッテリー開発

 リチウムイオン電池の発熱というネガな部分をクリアにしたのが、ラミネート構造とマンガン系正極だ。ラミネート構造というのは、カレーの真空パックのようなもので、このパックを何層かを組み合わせてひとつのバッテリーとなる。このラミネート構造により、エネルギー密度を2倍に高めても温度上昇を抑制。さらに、発熱による異常放電を防止することにも成功した。また、ラミネート構造のパックを個別に管理することで、異常を細かくキャッチ。異常時には個別に回路を遮断することで安全性を高めている。ラミネート構造のバッテリーは、円筒形ではなくほぼ長方形。そのため、スペース効率も高く軽量なので、自動車用としては、まさにピッタリなものとなった。
 マンガン系の正極を使用したのも熱対策だ。結晶構造の安定したマンガン系の電極は、安定した発熱をする特性を持つ。多くのリチウムイオン電池の発熱異常は、異物の混入によるものとされているためだ。日産のバッテリー開発では、そんな素材の研究まで行っている。そんな素材をナノレベルで最適に分散させる独自の配合方法により、電気自動車に必要なエネルギー密度の高い電池や、ハイブリッド車に要求される出力密度の高い電池を素材レベルから作り分けることが可能となった。

進んでる!日産 バッテリー技術の進歩

 今回このバッテリーを搭載したキューブの出力は80KWでバッテリーの重量は約100kg程度と担当した技術者は語ってくれた。三菱の電気自動車アイMiEVは47KWで7.5kgのリチウムイオン電池を22個搭載している。つまりバッテリー重量は165kg。その差に思わず本当か? と叫びそうなくらい日産のバッテリー技術の進歩は進んでいるように感じた。日産のバッテリー重量は、試作段階であくまで口頭レベルのもの。オフィシャルな数値ではない。それを差し引いても、日産、リチウムイオン電池に関してはかなり自信アリの様子。沈黙を守っているトヨタ・ホンダなど、今後のリチウムイオン電池開発、奥が深いです。

日産が独自開発を進めるリチウムイオンバッテリーを搭載した独自開発の電気自動車(試験車両)
達人プロフィール: 大岡 智彦
職業:コリズム編集長
自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。

 

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