過去にない!? クルマ造りに影響を与えた商品「iPod」の真実

 自動車メディアに長く籍を置く「CORISM」編集長の大岡は語る。「いちヒット商品がクルマ造りの一端にまで影響を及ぼす例は、過去にも記憶がない」と。これは実に興味深いことだ。
 クルマはあらゆる部品の集合体から成り立っている。各パーツを製造するメーカーは、それぞれの車種にマッチした部品を用意する。しかしiPodは違う。もはやiPodに合わせたクルマ造りすら行われているのだから。本来ライバル関係なはずのオーディオメーカーでさえ、「iPod対応」をうたわなければ商品の売れ行きにも影響を及ぼしそうな勢いだ。その違いとは何か。 
 編集長 大岡は、新宿・初台にあるAppleの日本法人アップルジャパン株式会社を訪れ、ますます深化してゆくクルマとiPodの関係について聞いてみることにした。しかしその答えは、実に意外なものだった。
アップルジャパン本社で緊張の面持ち!?「CORISM」編集長、大岡 智彦

自動車メーカーとの関係は「自然ななりゆき」で

アップルジャパン本社のある東京オペラシティタワー

 まず第一に気になるのは、iPodという一プロダクトが、瞬く間に世界各国のメーカー純正オーディオのスタンダードとなっていった過程だ。その秘密が気になる!
 編集長 大岡(以下大岡)「純正採用拡大を遂げたiPodだが、Apple社側から自動車メーカーなどへ積極的なアプローチを仕掛けたのか」。まずそう問うと、意外にもアップルジャパン広報部(以下Apple)はクールな回答をしてきた。
 『いえいえ、あくまでも自然な成り行きでした。』
ええっ!?そうなの?見事なまでの肩透かしな気分である。
 『iPodは、デジタルオーディオの中で日本では6割、Appleの本拠地アメリカでは7、8割という圧倒的なシェアを誇ります』(Apple)。
 ユーザーの強いニーズから、自然に周辺環境も整えられてきたというワケだ。実際にA社のクルマを買おうと検討していたユーザーが、そのメーカーはiPod未対応だったことを知りB社に変更した、なんていうエピソードもあるほど、iPod対応か否かは今やユーザーのクルマ選びの重要なファクターにすらなっているのは確かだ。AppleのiPodに対するゆるぎない自信が感じられる答えに圧倒されつつ、でも釈然としない大岡は
「とはいえ、何かしらの交渉はしたのでは」となおも問う。
 『確かに各メーカーへの技術的情報の開示やアドバイスなどは積極的に行ってきましたね』(Apple)。
 そのあたりのオープン性は、もともとAppleが強みとするところでもある。その姿勢が、オンリーワン商品のiPodでも貫き続けている点にもまた驚かされる。

一番の強みは「Dockコネクタ」

 大岡「iPodのヒットを受け他社からも多彩なMP3プレーヤーが続々と登場しているが、差別化はあったのですか?」
 『モデルに関わらず、Dockコネクタをスタンダードな接続規格と定めたことがiPodの大きな強みのひとつです。』(Apple)
 商品のサイクルが長い自動車にとって、コネクタの規格がコロコロ変わるようでは困りモノ。その点でもAppleの姿勢は自動車メーカーから高く評価されているのだ。またDockコネクタが繋がっていれば、他にシガーライターなどから電源を取る手間もなくなり、煩雑な配線からも開放される。スペースの限られた車内ではこれが大きい効果を果たすだろう。
 なるほど良く出来ている。そうなのだ。邪推するまでもなく、自動車メーカーとの関係とは、なるべくしてなった必然の関係、ということなのである!

メーカー純正「iPod対応」オーディオの最新採用例

 今では次々と世界の自動車メーカーで"iPod対応"オーディオが拡大採用され続けている。そこで最新の2例をご紹介しよう。違和感なくフィットしたiPodを見ると、Appleが既にクルマの開発段階から深く関わっていることが見えてくる。メーカーのiPod対応はココまでススんでいる!

【最新採用例その1】「スマート フォーツー」

 標準装着されるiPod対応オーディオはALPINE「iDA-X001」。シンプルにラジオとiPodのみが使える割り切った造りとなっている。オーディオ下部に専用のインダッシュ式iPodホルダーまで用意される念の入れようだ。
iPod対応オーディオを標準装備するスマート フォーツー カブリオレ
iPod対応オーディオを標準装備するスマート 新型フォーツー カブリオレ。新型は三菱製1.0リッターNAエンジンを搭載する。
スマートフォーツーに標準装着されるiPod対応オーディオ、ALPINE「iDA-X001」
中央のジョグダイヤル操作で曲名やアーティスト名などがiPod同様のインターフェイスで表示される。
CDやMDなど一切つかない割り切りが、全長わずか2.7m、2シーターのシンプルなスマートのコンセプトと妙にマッチするのだ!

【最新採用例その2】「キャデラック CTS」

 アメリカの高級車ブランド「キャデラック」最新モデル「CTS」にもiPod対応オーディオが搭載される。センターコンソール内にはオーディオ入力端子とUSBコネクターが標準装備。またオーディオ自体も出力300w、10スピーカーが搭載された専用のBOSE 5.1ch サラウンド サウンドシステムを採用するなど、高級車らしい実に贅沢な造りとなっている。
キャデラック CTS エクステリア
NEWデュアル・テクスチャーグリルが印象的な08年モデルの「キャデラック CTS」。全体にエッジの利いたスポーティかつ先鋭的なデザインが特長だ。
キャデラック CTS インパネ
CTSのインテリアは外観同様モダンだ。8インチスクリーンを持つ30GBのHDDナビゲーションシステムを始め、高級車らしく装備は非常に充実している。
キャデラック CTS センターコンソールのiPod用外部入力端子&USBコネクター
センターコンソール部に設置されたオーディオ外部入力端子とUSBコネクターによってiPodなどのデジタルオーディオプレーヤーに対応する。
インタビュー
大岡 智彦(CORISM編集部)
まとめ
徳田 透(CORISM編集部)
取材協力
Apple
PHOTO
Apple/メルセデスベンツ日本/GMアジアパシフィックジャパン/佐藤 靖彦/高木 博史/CORISM編集部《順不同》