XFの搭載エンジンは3機種。V型6気筒3.0Lをベースに、V型8気筒4.2Lが自然吸気仕様とスーパーチャージャーの2機種用意されている。基本的にXKと同じ設定であり、パワートレーンの面でもXKに由来するサルーンであることが分かる。逆にいえば、外観や内装が大きく革新されたわりにパワートレーンはキャリーオーバーになったわけで、このあたりは良い面と物足りなさの両方がある。長期的にはタタの傘下での新しいパワートレーンの開発に期待しておきたい。
キャリーオーバーとはいえ、3機種のエンジンとZF製の電子制御6速ATとの組み合わせはとても気持ち良い走りを実現する。ベースの3.0Lエンジンでも243ps(179kW)/30.6kg-m(300N・m)という余裕十分の実力を持ち、低速域からのトルク感と滑らかな変速で気持ち良く走れる。4.2Lエンジンとの違いを感じるのは、加速時にアクセルを踏み込んだときにエンジン音の盛り上がりがやや大きくなることくらいだ。
6速ATはDレンジからパドルを操作するとマニュアルモードに入り、長時間操作しないでいるとオートモードに戻るが、パドルを長押し(手前に引くから長引き?)にしてもDレンジに戻すことができる。
4.2Lエンジンは自然吸気仕様でも224kWの実力。馬力換算では304psのパワーを持つわけで、十分にというか、相当に速い。美しくて速いというコンセプトがが良く分かるのはこのモデルだ。SV8に搭載されるスーパーチャージャー仕様のエンジンなら426ps(313kW)/57.1kg-m(560N・m)とさらにパワフルだが、ウェット気味の箱根路ではその実力を確かめられるような状況にはなかった。
ステアリングのフィールはかなり柔らかめの印象。いかにもジャガーらしい柔らかさで、ちょっと手応え不足のようにも感じるが、なかなかどうして操舵に対する反応はしっかりしている。
その割に硬めの印象だったのが足回り。路面の悪いところではゴツゴツした感じを受け、走り出してすぐにジャガーにしては硬いなという印象を受けた。XFにはジャガードライブセレクトという可変機構が設けられていて、スイッチを操作することで、エンジン特性、ステアリング特性、サスペンションの硬さなどが変化するのだが、ノーマルモードを選んでもけっこう硬めの印象だった。
なのに3グレードを乗り比べた印象では、最も大きなタイヤを装着したSV8の乗り心地が、最も乗り心地に優れていた。これは可変機構の設定によるところもあるのだろうが、短い試乗時間内では同じ設定で3モデルを比較することができず、改めて確認したい課題として残った。
XFは全体としてとても気持ち良く走れるクルマで、新しい魅力を備えたジャガーになったと思う。ベースグレードの3.0ラグジュアリーで650万円という価格は、メルセデス・ベンツEクラスやBMW5シリーズと真っ向から対決するような水準にあるが、十分に勝負できるクルマである。上級プレミアムサルーンに新しい選択肢が生まれたといえる。
過去に7000台売れたSタイプや1万台売れたXタイプなど、既存のジャガーユーザーだけでなく、新しいユーザーをジャガーに引き寄せるクルマになりそうだ。