ライター紹介

職業:医師 医学博士 自称、自動車詳論家の評論家。自動車雑誌を読み始めて35年以上、現在でも毎月多数の自動車雑誌を読破。医療より自動車の勉強時間の方が長い? と、いうお医者様。

丸山 和敏 氏

医療界のナンバー1ドライバーを目指す?!  小さい頃からクルマが大好きで、泣いていてもクルマに乗せると機嫌が直った。18歳で運転免許証を所得。最初のサバンナの以後はフェアレディ280Z(S130)、スカイラインRS(DR30))、スープラ3000GT LTD(MA70)、スカイラインGTRニスモ(R32)、スカイラインGTR(R34)の国産車は全てフルチューン(チューニング車歴26年)。  速いクルマが大好きでサーキットも時々走っていたが、自動車評論家の菰田潔師匠と出会い、運転技術の向上の必要性を悟り、現在も日々スムーズ・ドライビングを勉強中。  毎年、師匠と一緒に行く「ニュルブルクリンク詣で」をライフワークとしている。目標は「日本一スムーズな運転ができる医者」。現在の愛車はBMW M3CSL。

日産GT-Rには威圧感のあるデザインにしてほしかった・・・。

 友人達に「GT-R注文した?」と何度聞かれたことか。そう、私はスカイラインGT-R NISMO(通称32GT-Rの500台限定車)、そして34GT-Rと乗り継いできたGT-Rファンだからである。しかし、まだ注文書にサインはしていない。
 残念ながら、東京モーターショーで見たニッサンGT-Rは心臓に“ビビ!!”と響かなかった。ところが、屋外で見たスタイルは想像以上に“イイじゃない!”。リヤスタイルは伝統の丸形テールランプを採用しながらモダンかつ力強さを感じる。だが、フロントグリルからヘッドライトの処理は、現代的であるが一目でGT-Rとわかるような独創性がなく残念だ。GT-Rファンとしてはバックミラーに映ったGT-Rが怖そうに見えて欲しいのだ。
 空力にこだわったという、埋め込まれたドアノブを引き、レザーシートに座る。シートはゆったりしていて着座位置は乗用車的で高く乗降性が良い。個人的にはスポーツカーとしてみたらアイポイントが低い方が好き。目の前にある大きな8000rpmまで刻んだレブカウターを中心としたメーター配置は見やすく良いのだが、エアコンのダクト、マルチファンクションディスプレイを中心としたインテリアのデザインがどうも・・・。良くも悪くも従来の日産デザインの流れを感じてしまうのだ。世界のスーパーカーと戦うには、イタリア車のようなクールなデザインにして欲しかった。一方ステアリング、パドルシフトレバー、セレクトレバーや室内のドアノブなど触る機会の多い部分にはレザーを巻いたりして質感が良くこだわりを感じる。

強烈な加速Gが途切れない素晴しいミッション

 シフトレバー後ろにあるスタートボタンを押すと、エンジンが始動し力強い排気音が聞こえてくる。スタートボタンにカバーを被せるとか、ボタンを押すとメーターに何か「高性能エンジンが始動したぞ!」と思わせる表示するなど演出があれば気分はもっと盛り上がる。そういった演出が少し足りないかもしれない。
 重めのシフトレバーをAレンジ(自動)に入れ(操作感は良い)、ブレーキを解除してアクセルを踏み込む。コースは雪が降っていて、路面はウエットでまたはシャーベット状で、480PSを試すには最悪のコンディション。だが4WDによる良好なトラクション、そしてトラクションコントロールのVDC-Rを装備しているので安心してアクセルが踏める。さすがにターボが利き出すと、リヤタイヤが滑りだすが緊張感は少ない。
 走り出して一番感激したのが、トランスミッションの素晴らしさである。BMWのSMGは勿論、VWのDSGより一枚も二枚も上手。マニュアルモードにしていても途切れない連続的に、しかも強烈な加速Gが直線的に続く。このミッションだけでも770万円の価値があると思う。だが、パドルシフトの位置が固定されていて、滑りやすい路面でシフトの為にステアリングから手を離すのは勇気が必要だった。

まるでゲームのようなエンジンフィール

 素晴らしいトランスミッションの為、脇役に転じてしまったのがエンジンである。勿論最大トルク60kg‐mを発生するエンジンのトルクバンドは広く、どこの回転でもアクセルを踏むだけで1740kgの車重が軽くなったような異次元の加速をする。だが、その速さは無機質的で熱いハートを感じない。回転の上昇に伴う吸気音、排気音、エンジン音、振動等の五感に訴える“ドラマ”が少なく、まるでゲームで運転しているように感じたのは私だけだろうか?

走りのパフォーマンスと引き換えにしたハードな乗り心地

 路面状況が悪かったのでコーナーリング性能は評価出来なかったが、コーナーのターンインでスムーズにフロントがインを向くのは良い。これはトランスアクスル方式により前後重量配分の適正化が一番の要因と考えるが、もしリヤにミッションの加重がかかっているならもっとリヤのトラクションが欲しいと感じた。
 ブレーキングではブレーキペダルの入力と制動感がリニアであまりないが、フロント対向6ポッド、リヤ対向4ポッドと巨大なブレーキローターを採用。ブレーキの限界はドライ路面ではかなり強力な制動力を誇るように見える。アンダーステアとブレーキのフェードが課題であった歴代GT-Rの弱点を克服して、走る、止まる性能においては隙がない。
 この車に対して乗り心地は言うべきではないだろうが、3段階あるショックアブソーバーの減衰力を一番柔らかくしても、かなりハード。短時間、後部座席にも座ったが前席以上にタフさを要求され、更にメカニカルノイズが多く、前席とのコミュニケーションも取りにくい。あくまで後席は非常用と考えた方が良く、シートベルトのバックルも固定されていないので使いにくかった。

オーラをまとうのはこれから? それとも・・・。

 細かくはいろいろあるが、これだけの超高性能を770万円で手に入れられるのはとても凄い事だ。性能的にはスーパーカーと呼んでもいいだろう。しかし、スーパーカー特有のオーラを感じないのはなぜだろうか。クルマは性能だけではなく持つ喜び、乗る楽しさ、見て・聞いて・触れる嬉しさが溢れているものが私はスーパーカーだと思っている。そんな高揚感が、最後まで感じることが出来なかった。
 今ニッサンGT-Rは発進したばかりである。今後、熟成を進め、開発責任者の水野和敏氏がもっとワガママを言い、理想のGT-Rを追求して欲しい。水野氏と出身地も近所で同じ名前の和敏としては、それまで注文書へのサインはもう少し先になりそうである。