ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

「新型アルファード&ヴェルファイア」の最新情報はこちらをチェック!

トヨタは5月12日、Lクラスミニバン「アルファード」をフルモデルチェンジするとともに、兄弟車「ヴェルファイア」を同時に発表した。初代アルファードが持つ強い押し出し感と豪華な内装をさらに洗練。トヨタの最高級ミニバンとして名実共に正常進化を遂げた。

ふたつの顔が登場!

今年5月にフルモデルチェンジが行われるアルファードの概要が少しずつ明らかになってきた。今回のフルモデルチェンジの最大のポイントは、アルファードだけでなくヴェルファイアと呼ばれる兄弟車が増えることがわかっている。このヴェルファイアは、いわゆるノア&ヴォクシーと同じくスタイルなどをチョコチョコっと変えたものだと理解するといいだろう。ヴェルファイアの立ち位置は、ヴォクシーと同じくちょっとヤンチャ系。アルファードに比べ、より押し出しの強いエアロの装着とフロントまわりのデザインが特徴だ。
 このテのチョイ悪系ミニバンというと、今のトレンドではまさに売れ筋となるのは確実。トヨタのマーケティングの基本は、今すぐにたくさん売れることと感じずにはいられない。表現は悪いが、このデザインやコンセプトに僕は残念ながらトヨタの考える未来のデザインやインテリジェンスは感じられないのである。チョイ悪系はハヤリだし、国内ではトヨタ車の中で高収益車種だし、いろんなチャンネルで売れればいいよねぇ、的発想がビリビリと感じてきているのだ。

基本的なハードはエスティマを踏襲

というわけで、基本的なハードはエスティマを踏襲することになりそうだ。エンジンは2.4リッター+CVTの組み合わせとV6の3.5リッターと6ATも、十分に想定範囲内。今のところの情報だと、アルファード&ヴェルファイア専用に開発されたような先進装備などは今のところないようだ。もちろん、トヨタのフラッグシップミニバンとしての高級装備も満載の予定だという。

安全装備の充実に注目!

とまあ、すごくアルファード&ヴェルファイアに批判的に感じられるかもしれないが、意外とそうでもないのである。諸手を挙げて歓迎したいのは、すでにマークXジオがミニバン初となる全グレード標準化をしているS−VSC(横滑り防止装置)と後部席中央3点式シートベルトがアルファード&ヴェルファイアでも全グレードに標準装備化されるらしいのだ。平成24年には法的にも義務化される後部座席の3点式シートベルトだから、当然といえば当然だが他のメーカーのほとんどが2点式シートベルトであることを考えると評価するべきだと思う。ましてや、横滑り防止装置などはオプションまたは装着すらできないクルマもあることを考えると十分に評価できる内容だ。
 後部座席中央の3点式シートベルトと横滑り防止装置に関しては、ミニバンのような多人数乗車で重心の高いクルマにもっとも有効な安全装備だと思う。横滑り防止装置は、重心の高いミニバンのもしもの横転や滑りやすい道での横滑りを防いでくれるという重要な役割を持つ。また、多人数乗車の機会が多いミニバンは、後部中央席に人が座ることも多い。2点式では上半身の拘束が不十分で左右の3点式シートベルトを装着している人に危害を加えることも予測できるし、そもそも自分もケガをする可能性が高くなる。そういった意味でも重要な装備なのだ。後部座席中央の3点式シートベルトに関しては、メーカーの多くがコストや重量増を理由に法的に出荷できなくなるギリギリまで装着を見送っているのが現状だ。

ご都合主義から脱出!

実際、グローバルモデルのコンパクトカーやセダンなどでは法的に装着義務化が進んでいる欧州仕様車には日本仕様にはない後部座席中央の3点式シートベルトが標準装着されているという矛盾があるのだ。多くのメーカーが、安全だの環境だのともっともなことを言ってはいるが、現状はコストや重量増などのメーカーの都合で安全性能の低い後部中央席の2点式シートベルトを装着して何食わぬ顔で販売しているのが現状である。そういう意味でアルファード&ヴェルファイアも、法的に義務化されるギリギリまでごまかし通せるにもかかわらず積極的に後部座席中央3点式シートベルトを装着したのは十分に評価に値すると思う。ある意味、マークXジオから始まるトヨタのミニバンはメーカーのご都合主義からの脱出を開始したと考えてもいいかもしれない。
 よくミニバンのCMは子供を使う。子供が喜ぶ姿を親はイメージして家族の楽しさや一体感を夢見てミニバンを買う。たくさんの人を乗せていろいろな場所に行き、思い出を共有して幸せを感じるというツールとして、ミニバンはまさに家族にピッタリだと思う。ただ、我々ユーザーは忘れてはいけないのは、クルマはいつ事故に遭う、遭わせてしまう可能性があるということだ。後部座席でシートベルトをしていないなんて、もはや自殺行為で、2点式だ3点式だの問題ではない。ただ、もし3点式シートベルトが付いていなかったり、わずか約5万円前後で装着される横滑り防止装置がついていなかったりでケガをしたり、ケガをしなくてもクルマを壊して途方にくれたりなどなどがあったらどうだろうか? もちろん、安全装備が万全であっても事故は起る。ただ、横滑り防止装置があれば単独事故の30%は減るという研究結果もあるそうだ。そう考えると、リスクは減らせる。不幸は未然にある程度少なくできる。多くの人はそれを知らない。だからこそ、メーカーはもうベーシックな装備といえる横滑り防止装置と後部座席中央3点式シートベルトは標準装備化して欲しいのだ。標準装備されてさえすれば、クルマに詳しくない人でも不幸になる可能性を減らすことができる。

不幸にならないためのミニバン選び!?

もし、これからミニバンを検討している人がいるならば、後部座席中央3点式シートベルトと横滑り防止装置がついていないクルマには要注意。イメージだけでミニバンを選んではいけない。そういった意味でアルファード&ヴェルファイアの安全装備の標準化には拍手を送りたい。