ライター紹介

モータージャーナリスト

こもだ きよし 氏

日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員、AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)、JAF交通安全委員会委員、セーフティドライビング・インストラクター・アカデミー会長、警察庁運転免許制度に関する懇談会委員、BMWドライバー・トレーニング・チーフインストラクターなど、多数の肩書きをもつ。しかし、実は単純にクルマを運転すのが大好きというモータージャーナリスト。そのため試乗記などは、いかにちゃんと楽しく走れるかがテーマ。走りに関して超一級の分析力をもつ。

早くも次世代燃料の模索を始めたノルウェー王国

 マツダは水素を燃料とするロータリーエンジンを1991年から研究している。ボクも10年近く前に実際に水素ロータリーエンジンを搭載したRX−7に試乗したことがある。また最近では水素ロータリーエンジン搭載のコンセプトカー「RX−8ハイドロジェンRE」をモーターショーで展示していたのでご存知の読者も多いだろう。
 ノルウェー王国はスウェーデン、フィンランドと並んだ北欧3国のひとつだが、世界第三位の石油産油国であることはあまり知られていない。フィヨルドになっている国の北西側は石油が出る北海に面していることで、その権利を持っているためだ。
 これだけ石油を採掘してもその90%は輸出している。それは国内のエネルギー源のほとんどは水力と天然ガスでまかなうことができるからだ。
 このように豊かな資源があるにもかかわらず、ノルウェー王国は早くも次世代燃料の模索を始めたのである。それがハイドロジェン(水素)である。21世紀になったいま、CO2の排出がなく、再生可能なエネルギーである水素に注目したのは当然のなりゆきだ。
水素を燃料としたクルマで長距離移動できるようにしようという国家プロジェクトHyNor(Hydrogen Road of Norway)が立ち上がり、途中の水素ステーションで水素を補給しながらスタバンゲル市からオスロ市間のハイウェー580kmの距離を走れるようにしようとしている。これがハイドロジェンロードである。これを徐々に伸ばして国中にネットワークを築けば、ゼロエミッションの水素を燃料とした移動手段が可能になるということだ。

水素燃料車「RX−8ハイドロジェンRE」

 水素を燃料とするクルマといえばすぐに燃料電池車(FCV=フューエルセルヴィークル)が思い浮かぶが、まだ価格が高過ぎて現実的でない。HyNorが選んだのは水素を燃料とするロータリーエンジン車だった。これはインフラとクルマを少しずつ増やしていこうというプロジェクトであり、水素社会を早く立ち上げるためにRX−8ハイドロジェンREが必要なのだ。
 RX−8ハイドロジェンREは、外観はRX−8そのもの、エンジンもロータリーであるが、燃料がガソリンではなく水素というクルマだ。現在はバイフューエルでガソリンタンクが付いているから、ガソリンでも水素でも走ることができるが、ノルウェー王国に到着したときからは水素だけで走るようにガソリンタンクの給油口は塞ぐなどの対策がとられるようだ。

マツダ、水素社会実現へ一歩前進

 2007年11月7日、日本のノルウェー王国大使館で調印式が行われた。これでマツダとHyNorは、水素燃料と水素自動車の展開と開発を促進する目的で協力活動を行うことに同意したことになる。調印式でサインをしたのはノルウェー王国側がHyNorの会長であるウルフ・ハクセル氏、マツダ側は取締役専務執行役員の金井誠太氏である。ノルウェー王国大使とマツダ社長の井巻氏が後見人として出席した。
 調印式が終わったときに「ロータリーエンジンはガソリンよりも水素の方が合っているんですよね」と金井さんに問いかけたら、「その言い方はやめて欲しい。水素を使うならレシプロよりロータリーが合っていると言ってもらいたい」という返事が来た。なるほど。
 まずはRX−8ハイドロジェンREを30台リースで購入することになるという。いよいよ水素社会が現実のものになってきた。そしてそこにマツダが一歩先に踏み込んだことは日本人にとって嬉しいことだ。
 この調印式に立ち会って、日本の国内も遅れをとってはいけないと思った。

ノルウェー王国大使館にて、HyNor会長 ウルフ・ハクセル氏、マツダ取締役専務執行役員 金井誠太氏による調印式が行われた。

ノルウェー王国とマツダは、水素社会の実現に向け協力活動を行うことに同意した。