ウィルソン「ニューウィルソン」

「おおっ〜懐かしい!」思わず、団塊世代以上の方からはそんな声が聞えてきそうです。そういえば、ボクが物心ついた頃、父のクルマのトランクの中にもこのワックスが常備してあったのを思い出しました。
 写真はセピア色ですが、決して“年代モノ発見”という話題ではありません。最近では、派手なキャッチコピーの製品に埋もれ、カー用品店でも目に留まる事が少なくなったこの「ニューウィルソン」。実は現役バリバリの現行生産商品なのです。
 登場はなんと昭和35年。高度経済成長が始まったばかりの世の中、自動車にワックスを塗るなど極々限られた方に許された行為だったに違いありません。何しろテレビすらほとんど普及しておらず、所有宅には、毎晩観覧に黒山の人が出来たというのですから、自家用車など天文学的価格でした。
 テレビの白黒によるアナログ放送が始まった当時から、地デジに切り替わろうとしている現在まで、頑なに生産されているこの「ニューウィルソン」の謎に迫ってみました。

クラシカルなパッケージがオシャレ

 最近は、日本アカデミー賞を受賞した映画「ALWAYS 三丁目の夕日」の続編も公開され、前作同様大ヒット作になっております。この映画の影響で、昭和30年代グッズが密かなブームになっており、飲料水やレトルトカレー、お菓子など当時のパッケージを再現した“復刻版”として続々と発売していますが、この「ニューウィルソン」は販売当時からパッケージの変更は一度も行われていません。このラベルは現代の目から見ると妙に新鮮でカッコイイ!トランクの中ではなく、部屋に飾りたいくらいですね。

 コインを使い、頑丈な缶を開けると、やや鼻をつく匂いがしますが、これは、一切の香料などを使用せず、発売当時から基本原料を変えていないということです。確かに最近のカルナバ系ワックスは、あたかもカルナバ含有率が高いかのように思わせるため、わざと甘い香りのする香料をブレンドしているものがほとんどです。
 この「ニューウィルソン」の主原料は、天然カルナバ蝋。漂白も行っていないので、やや茶色掛かっていますが、それが余計なものを含有していない証でもあります。

作業性は現代のワックスにも劣らない!

ニューウィルソン 塗りこみ
主成分のカルナバ蝋は油分が多いため、感触としては油を塗りこんでいるような感じです。そのため伸びは非常によく、作業性も最新のワックスに引けをとりません。
ニューウィルソン 拭き取り
塗りこんだ直後はべとつきますが、乾燥すれば、嫌な粉が出る事もなく、スムースに拭き取る事が出来ます。油分が多いため、ホコリが付着しやすいのが、唯一の欠点。

その仕上がり表現するならネットリ、テカテカ

ニューウィルソン 塗布後の塗装面
ニューウィルソン 塗布後の塗装面

 仕上げた塗装面は、最近のワックスとはかなり趣が異なる艶が出ます。表現するなら、新橋の駅前で長年靴磨きに徹している職人さんに磨いてもらった黒革のギラッとした艶とでもいいましょうか・・・。とにかく、ネットリ、テカテカといった艶で塗装色が濃くなったような印象を与えます。
 
 さて、最後になぜ、この「ニューウィルソン」が変わらぬ姿で市場に生き残っているのか?とメーカーに質問をしたところ、主に黒塗りハイヤーの運転手さんや、昔ながらのファンに支持されており、現在でも同社ワックス売り上げの5%がこの「ニューウィルソン」だという回答を頂きました。やはりこのネットリとした艶の虜になり、リピーターが多いのだそうです。確かに、黒塗りのハイヤーって、いつもテカテカの艶ですよね。
 私も数々のワックスを試してきましたが、一目でビカビカ!と分かる派手な艶に結構ハマっています。
 
 昭和35年から頑なに姿を変えることなく生産され続け、製品への誇りが、この赤い缶に込められているように感じました。このコダワリが称えられ、「ニューウィルソン」は、日刊自動車新聞用品大賞2007にて特別賞に選考されました。

 値上げもしばらく行っておらず、実勢価格も600円前後とリーズナブルです。濃色車にお乗りの方、伝統的ともいえるネットリした艶を是非お試しアレ。

written by 外川 信太郎