『EOS 2.0T』との初対面は、フォルクスワーゲンジャパン東京オフィスのある赤坂アークヒルズのエントランスだった。車寄せに横付されたその姿は、カタログで見るよりはるかにスペシャリティなクルマに見える。
クローズド状態でも美しい曲線を描くルーフラインは、トランクリジットと一体化。スタイリッシュなエクステリアデザインはアクもなく、誰からも受け入れられるものだろう。
プラットフォームは『ゴルフ』と『パサート』のものをそれぞれ採用しているが、このスタイリングを見れば、イオスがこれらの派生モデルではなくVWのニューカテゴリーであることは理解できるはずだ。
クローズド状態での気密性、快適性は特筆モノ。しかし寒風吹きすさむ中、世界初の5分割ルーフシステムを作動させ、オープンエアーにしてみたいという衝動に駆り立てられた。そこで、人通りが絶えない六本木「アマンド」の前に『EOS 2.0T』を停め、センターコンソールに装備された開閉スイッチに指を掛けた。その動作の様は、まるで戦隊ロボットの合体。街ゆく人々の視線は、たちまち『EOS 2.0T』に釘付けになってしまった。このクルマを購入した人は、群集の前でこの動作をすることが病みつきになりそうだ。
市街地では、オプションの18インチタイヤ&ホイールが乗り心地に影響している感じを受けた。235/40R18というワイドな設定は視覚的にはスポーティであるが、ややバタつき感が目立つ。また、轍にも過敏になりがちだ。
ドイツ生まれの本領発揮!
ルーフを閉め、高井戸ICから中央道に入る。アベレージが上がると、高級GTのような安楽さが味わえる。時速100Km/hでのエンジン回転は、6速、1900rpm。風切音やロードノイズは気密性の高いキャビンのおかげで、耳にはほとんど届かない。
八王子料金所を抜けると一気に山々が迫り、勾配もきつくなる。さあ、本領発揮だ。追い越し車線で頑張っていた商業車達も、約12%の登坂には歯が立たず、走行車線でエンジンに鞭を打つ。さてこちらはというと、ステアリングに設けられたDSGのパドルに手を掛け、5速から、3速へ。まさに電光石火のシフトダウン!タコメーターの盤面で指針が跳ねた。静粛に包まれていたキャビンには、抜けの良い澄んだサウンドが心地よく届き、ターボラグのないリニアな加速が急勾配などものともせず速度を持ち上げる。「日本離れ」した速度粋への到達は、まさにあっという間だ。
極寒の河口湖ICにて高速を降り、再びカブリオレに。世間の視線は空気以上に冷たいが、全身を包むシートヒーターと、強力な暖房能力を有するエアコンがなんとも頼もしい。
車通りも疎らなワインディングロードに出て、ペースを上げる。タイトコーナーが連続するステージなのだが、ワイドなボンネットは路面と平行を保ったまま「ヒラリ・ヒラリ」とコーナーをクリアし、鼻先が「クイッ」と向きをかえる。ロックtoロック2回転強というクイックなステアリング設定が武器となり、コーナーをクリアするたびに、喜びを感じられるものだった。トルク重視のV6に比べ、軽快さでは明らかに「2.0T」に軍配が上がるだろう。
昨今のクルマのブレーキシステムには、ABSのほか電子制御ブレーキ圧配分システムやブレーキアシストなどが装着される関係、ドライバーの意に反した制動をするクルマが多い。その代表が急に制動が立ち上がる通称「カックン・ブレーキ」。しかし『EOS 2.0T』のブレーキは、数々の電子デバイスを有しながらも、踏力に見合った制動、そして、ガッチリとした剛性感のあるフィーリングが魅力。耐フェード性も高く、ワインディングで少々無茶をした程度では根を上げることはない。
『EOS 2.0T』は、実にオールラウンドなクルマだった。ラゲッジもこの手のクルマとしては異例な大容量を誇る(クーペ時380リットル、カブリオレ時205リットル)。日常生活の中では、実用的なクーペとしてお買い物にも使用できるクルマである。
また後席もミニマムとはいえ、大人が2人座れる空間を有している。それでいて、スイッチひとつでカブリオレに変幻自在。走行性能もスポーツカーの名に恥じないものだ。
『EOS』は「2.0T」で¥4,380,000、「V6」で¥4,980,000と決して安価なクルマではない。購買層も40代以上が中心だ。しかし、週末の家族サービス、そして独りだけのワインディングロードと、実に多彩に楽しめる一台である。チョイワルおやじにはイタリアの『アルファ・スパイダー』あたりを勧めるとして、堅実ながら遊びごころを忘れない大人には、『EOS』をぜひオススメしたい。