個性派「シトロエン」やスポーティな「プジョー」など、フランスには強烈な個性をウリにするメーカーが居並ぶ。そんな中にあって、地味(失敬!)ながらも常に良質な大衆車を造り続けてきたメーカーが「ルノー」。中でもクリオ(日本名「ルーテシア」)は、同社を代表する人気コンパクトカーです。2005年秋にはついに3代目となる新型が登場。デビューするやいなや2006欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞するなど、話題も豊富の注目モデルですね。
さて本国デビューの興奮もさめやらぬ中、早々に日本仕様の新型ルーテシアが入ってきたとの知らせが。当初は1.6リッターのみで、5ドアと3ドア、さらに仕様によりいくつかのバリエーションがあります。
今回はその中でも1番の売れ筋モデルと思われる1.6リッター5ドアの標準仕様、AT車を借り出してみることにしました。
最初に「地味」と書いたけれど、それはあくまで日本市場だけの偏ったイメージ。フランスのみならず西欧における小型車シェアで1位を取るなど、実はルノー、かの地では超メジャー級ブランドなのです。
中でも最量販モデルとなるルーテシアだけに、新型でも非常に吟味されたパッケージングを与えてきました。
先代ではちょっとヘッドクリアランスが足らなかった後席の広さも、新型ルーテシアでは十分に確保されるなど、改善点の多さもさすが。パッと見平板なリアシートも、フィット感があってなかなかです。
さて、ルノーといえば、ひとクラス上のメガーヌに代表される個性的なデザインを挙げる人は多いはず。量販モデルにここまで大胆なラインを採用したルノーデザインチームの力量にも驚かされました。日本のカローラがこのようなデザインを採用するか、と考えればその大胆さも分かるでしょう。
しかし、続いて出てきた新型ルーテシアも同様の手法で来るかと思いきや、意外にもオーソドックスなラインで登場したのにはちょっとびっくり。ここは世界戦略モデル、手堅く出してきたということかもしれないけれど、ちょいと拍子抜けしたのも正直なところです。
とはいえエレガントでシンプルな佇まい、コレはコレで好感が持てるもの。また、よーく観察するとメガーヌとの近似性も発見できるし、ライバルのプジョー206にも近いスポーティな雰囲気もある。売れセン狙い、と言って差し支えないでしょう。
ちなみに、写真で見るより実車のほうがダイナミックに感じるのは面白いところ。老若男女、幅広い層にオススメ出来るデザインといえそうです。ただし試乗車の「ブルーグレーメタリック」はちょいとシブ過ぎかも。明るいボディカラーをセレクトしたほうが「フレンチ」らしくてオシャレ、かもしれないですね。なんせ13色も選べるというボディカラー。ここはじっくりと納得のいくまで選んでみることをオススメします。
なんと、スポーツモデルでもないのにイマドキ希少なMT(マニュアルトランスミッション)も選べる新型ルーテシア。仏車ファンのツボ、きっちり押さえています。やはり元気良く意のままに走らせてこそ、欧州コンパクトですからね。でも今日乗るのはATモデル。このあたり、出来が気になるところです。
(※上の写真は欧州仕様のMT車、日本仕様の1.6は全て右ハンドルです)
ルーテシア1.6に付くプロアクティブ4ATは学習機能付き。ドライバーの乗り方などに応じてシフトチェンジするスグレモノです。最初はその癖にちょっと戸惑うけど、体(正しくは「足」)が馴染むのか、それとも学習機能のおかげなのか、いずれにせよしばらく走らせればスムーズに走らせることが可能。ティプトロタイプのマニュアルモードも駆使すれば、1.2トン弱の軽いボディに1.6リッターのエンジンだから、結構元気に走れます。ただ3500rpmあたりを超えると、結構勇ましいサウンドが聞こえてくるのはご愛嬌か。音質的にはちっとも気にならない類いのモノだから、まあ良しとします。もちろん、遮音も効いており、ふつーに走らせている分には室内は静かなんですけどね。
街乗りの段階から、国産コンパクトカーとの乗り味の違いには感心させられました。もっと上のクラスのクルマに乗っている気分、とでもいうのか、非常にしっかり感があります。国産コンパクトカーの多くって、女性ユーザーを意識し過ぎているのか、やけに軽いステアリングとやけに軽快なハンドリングが軽快な反面、ちょっと落ち着きがないんですよね。
いっぽうで高速道路などでの直進性は速度域の高い欧州車らしさ、ルノーらしさがぷんぷん。安定していて安心感のあるものです。
クルマは小さくてよいけれど、長距離ドライブも楽しみたいなあ、という輸入車未体験のアナタには、いちどルーテシアを試乗してみることをオススメします。目からウロコの経験かもしれませんよ。
さて、ルノーといえば古くからのファンにはお馴染み「シート」のよさ。包み込むような独特のふんわり感は、ドイツ車にはない大きな魅力なのです。残念ながら新型ルーテシアにはそこまでの「凄み」は見られないものの、やはりルノーらしいやわらかなタッチは健在でした。
試乗車の内装色はダークグレー地に赤と青のドット入り。うーん、ちょっと地味。なんというか、真面目なドイツ車みたい。もう少しオシャレな内装でも採用すれば、より「フレンチ」らしさも発揮できるのになあ〜そこはちょっと残念。
ちなみに上の写真は欧州仕様のモノです。こんな明るい内装色とか、あるいはかつてのトゥインゴみたいにもっとポップな感じのテキスタイルを選ぶとか、そんな方法もアリかな、と。
確かに、世界戦略車としては非常に良く練られたクルマです。しかも日本車のコンパクトカーと比べ、大人のクルマという印象をうけました。
しかし結局のところ、輸入車にどこか異国情緒を求めている「いち日本人」としては、あとひと味欲しいなあ、と思うのも事実。もちろん真面目に出来ているのはうれしいのだけれど、全体に「フランス車ならでは」「ルノーならでは」のポイントがチト希薄なのですね。言葉を変えれば、もっと「ベタ」でもいいんじゃない?と思ってしまうわけ。
「オシャレ!」「さすがフランスのクルマだね」と言われ、オーナーも思わずニンマリしてしまうような、そんな「ツボ」があと少しあれば・・・
コレってワガママ、ですかね?