新型 カムリ が登場した。
カムリは日本を含む8カ国で生産され、100カ国以上で販売されているヒット車種である。
北米ではトップクラスのセールスを記録し、トヨタにとっては世界市場的にも非常に重要な車種となっている。
この新型 カムリ、最近のトヨタ・セダンの流れに沿ったスタイルで、洗練されていてなかなかカッコいいではないか?
しかし、日本人にとってのトヨタ カムリ(と兄弟車種のビスタ)は、正直地味な存在である。
カムリの歴史は、初代のセリカカムリから始まる。
セリカカムリはカリーナの兄弟車種であり、同じくFRのスポーツセダン。
まさに「羊の〜」なんとやらである。
(上記メイン写真参照)
当初はOHV+キャブレターの1600ccと1800ccエンジンのみであったが、後にEFI(インジェクション)化された2000ccのDOHCエンジン、18R-GEUを登載した「GT」が登場する。
その他1800cc OHV+EFI、2000cc OHV+キャブレターのエンジンもラインナップしていた。
前:ストラット+後:ラテラルの4輪独立サスペンション、4輪ディスクブレーキを搭載し、まさに本気仕様。
まるで現代のアコード ユーロRのようだ。
と、言いたいところだが、
当時の日本車はスペック至上主義。
「ツインカム」「ターボ」という言葉がもてはやされた時代であり、結局は販売上のイメージリーダーであったに過ぎない気もする。
さて、2代目のV10系カムリからは兄弟車である初代「ビスタ」の登場とともにFF化され、広い室内空間をウリにした真面目なセダンへと変貌を遂げる。
後のトヨタ標準エンジンともいえる、ハイメカツインカム(なんだかなぁ)を初採用した3代目、オヤジ臭の増した4代目と、基本的にはキープコンセプトと言っていいだろう。
ちなみに、3代目V20系カムリと4代目V30系カムリには、V6エンジン登載で4ドアハードトップの上級モデル
「カムリ・プロミネント」
(V20系は87年に追加設定)というモデルが存在した。
そもそも3代目にはセダン構造の他にハードトップ構造のボディもラインナップされていたが、4代目のハードトップはV6のプロミネントのみ。
ややこしい。
バブル崩壊後の1990年代半ば、俳優の田村正和氏を起用した4代目V40系ビスタ(カムリで言えば5代目)のTVCMは、鯛焼きを例にとって、
「尻尾の中まであんこが詰まっていますか?」
(ビスタは詰まってますよ)
というメッセージを送っていたが、実に空虚。
実際、この時期はどのメーカーの車も質素な造りで、露骨なコストダウンが見え隠れしたものだ。
90年代初頭の見えないパーツにまでこだわった「無駄な高級感」は一斉に絶滅。
94年モデルチェンジのV40系カムリ&ビスタも例に漏れず、である。そのため、特徴を挙げろといわれても、言葉に窮するほどの地味さを演出する結果となった。
強引に特徴を上げるとすれば、「頭文字D」に登場するガソリンスタンドの店長、立花祐一の愛車といったところか?
その後、カムリ&ビスタは「トヨタらしく」実に複雑な変貌を遂げる。ハイエースファミリー並とまではいかないが、結構ややこしい。
まず、96年にカムリが一足先に北米向けFF、国内3ナンバーサイズのセダン「セプター」(セダン、ワゴン、クーペが存在した)の後継と統合する形で「カムリ・グラシア」となる。
加えて国内の「マークIIクオリス」(97年)とも兄弟車だ。
のちに同形式のセダンは「カムリ」、ワゴンは「カムリグラシア」と名称の整理が行われる。
そして01年にはウィンダムと兄弟車となり、車体も大型化。エンジンは直列4気筒の2.4Lのみ。
国内で発売しながらも、もはや日本市場を相手にしていない世界戦略車種となった。
一方のビスタは、98年のモデルチェンジからカムリとの兄弟関係を解消。
ウォークスルーが可能な構造や、室内ユーティリティを重視した背の高いセダンとなり、ワゴンの「ビスタアルデオ」も登場。
すでに主流となっていたミニバンへ対抗(もしくは意地か)するかのような提案に満ちた車ではあった。
が、03年にトヨタ英国工場生産「アベンシス」のセダン&ワゴンに取って代わられる。
トヨタの販売チャンネルである「トヨタビスタ店」そのものも、04年にネッツ店と統合されることとなった。
天下のトヨタといえども、チャンネルの統廃合はありえるのだ。
V10〜V30系のカムリには2.0L DOHC、(1.6Lの4A-Gと並ぶ)当時の自称スポーツエンジン3S-Gを登載したグレードが存在する。
というより、3S-Gのデビューそのものが、2代目V10系カムリからである。
この時期のセダンは日産も三菱もホンダもマツダもフルラインナップ主義。
現在20歳代の方には想像がつかないかもしれないが、どのメーカの(お父様&ファミリー)セダンのカタログにも、
『2000cc DOHC 16バルブエンジン』
『スポーツツインカム 16バルブ』
という言葉が踊っていた時代があった。
当然5速MTが設定されている。
トヨタではコロナ&カリーナ一族、マツダ カペラ、ホンダ アコード、ラリーベースの有名どころでは4WD DOHCターボの日産 ブルーバードに三菱 ギャラン。
小型ファミリーカーも同じ。
カローラ、サニー、ミラージュ、ファミリア、シビック、すべて1600ccDOHCエンジン登載スポーツグレードあり。
ご丁寧に、税制諸費用の安い1500ccとたった100cc違いで重複ラインナップ。
とはいえ、トヨタの1600cc 4A-Gエンジンやホンダの1600cc ZCエンジンは確かに「スポーツエンジン」であったと思うが、ファミリア 1500ccと(NAの)1600ccの場合、カタログを見ながら「テンロクを誰が買うのだ?」と当時思ったものだ。
三菱車の排気量xグレードxボディ形状の数に至っては、カンブリア紀の生物並であり、もはや覚えきれない。
機会があれば、秘蔵カタログを紐解きながら紹介したいと思う。
麗しき80年代のDOHCロマン
VTECとSOHCとDOHCを使い分けているホンダや輸入車を除けば、今ではほぼあたりまえのエンジンスペックといえるDOHC。
しかし、現代のそれはあくまで低燃費志向のものであり、一方80年代の「DOHC」はカタログスペック追求から生まれたものである。
現在のセダン市場にも、本気志向のスバル レガシィB4やホンダ アコード ユーロR、ATのみだがレクサス、マツダ RX-8など、確かにその魂が受け継がれてはいる。
しかし、すべてにおいて「ついんかむえんじんとうさい!」とアピールした、あの時代が復活して欲しい・・・と思うのは「西部警察」世代特有のトラウマからくる、無い物ねだりなのだろうか?
需要・コスト・エコロジー・世界市場基準。
どの視点から見ても、今ではありない世界だろう。