ホンダ クラリティフューエルセル

<トヨタ ミライを超えた航続距離750㎞! ただし、リースで200台という販売方法は消極的か?>

ホンダクラリティフューエルセルホンダは、燃料電池車(FCV)であるクラリティ フューエル セル(の発売を開始した。燃料電池車(FCV)は、水素と酸素を化学反応させ電気を取り出しモーターで走る。基本的に電気自動車で、FCスタックと呼ばれる発電機を搭載して走行する。燃料が水素で、酸素と化学反応させた後、排出されるのは水のみ。排出ガスは無いので、究極のエコカーと呼ばれている。

EVに対して優れているのは、水素の充填時間。充填は、3分程度とガソリンの給油と同等レベル。充電に長い時間が必要なEVに比べると、航続距離だけでなく利便性も高い。本来ならば、EVは短距離用と割り切って使う方がいいが、税金も高く複数保有が難しい日本人にとっては、1台で今までのガソリン車通りに使えるFCVの方が合っている。

クラリティFCの航続距離は、約750㎞とされた。トヨタ ミライの航続距離が650㎞なので、クラリティFCが100km航続距離が長いことになる。当たり前だが、これは水素タンクの容量にもよる差といえる。クラリティFCの水素タンクの容量は141Lに対して、ミライは122.4L。タンクの容量が多ければ多いほど遠くへ行ける計算になるが、タンクの容量が大きい分重くなり効率は悪くなる。FCスタックの効率とモーターの効率も関係してくるので、単純に水素タンクの容量が多ければいいという問題でもない。

ホンダクラリティフューエルセルこうした航続距離も重要だが、やはり重要なのは水素ステーションの数だ。多少燃費が悪く、航続距離が短くても現在のガソリンスタンドほどの水素ステーションがあれば、それほど不便ではない。単に水素の充填回数が少し増えるだけだからだ。しかし、現在水素ステーションの数は全国で80ヵ所程度という状態。容易に水素を充填できる環境にはない。さらに、営業日が少なかったり、営業時間が短かったりと、かなり不便だ。それどころか、地方にはほとんど水素ステーションが無い。こうしたFCVでどこかに出かけようとすると、まず水素ステーションがある周辺が条件になる。現在は、どこにでも行けるというクルマではないのだ。しかし、それもEVの充電器が普及してきたように、徐々に時間の軽かと共に不便さは解決されていくだろう。

さて、クラリティFCの出力は、130kW&300Nmで車重は1,890kgとなった。ミライは、113kW&335Nmで1,850㎏となている。パワーはクラリティが勝り、トルクではミライが勝っているといった状況。車重はほぼ同等レベル。大きな差は無いといったところ。

ボディサイズは、やや異なる。クラリティFCは、全長4,915mm×全幅1,875mm×全高1,480mm。ミライは全長4,890㎜×全幅1,815㎜×全高1,535mm。ミライと比較すると、クラリティFCはやや大きなボディサイズをもっていることが分かる。クラリティFCは、ミライより全高が低くよりワイドなため、ワイド&ローなフォルムをもっていてスポーティさが増している。

ホンダクラリティフューエルセルクラリティFCのデザインは、近未来的とうべきなのだろうか、かなりユニークだ。賛否両論があるが、ミライ同様もう少しなんとかならなかったのか? と思うデザインだ。こうした特殊なクルマは、まずハードが優先される。そのため、デザインの優先順位は低くなる傾向にある。ある意味、仕方ないといえるのかもしれない。個性的なクラリティFCのヘッドライトは、ハイビーム3灯+ロービーム6灯の9灯式フルLEDヘッドライトとなっている。また、空気抵抗を減らし、燃費を向上させ航続距離を伸ばす試みも随所に見られる。リヤタイヤ上部までフェンダーが覆うリヤタイヤカバーは、初代インサイトを思い出させる空力デザインだ。

クラリティFCの走行性能に関しては、期待したいところだ。EVと同様に、多くの重い部品がフロア下に収納されているため、低重心化される。クラリティFCも、アコード ハイブリッドよりも約10mm低い重心高を実現。全高も低いこともあり、クラリティFCのスポーティな走行性能にも期待したい。

クラリティFCとミライとの大きな違いは、FCスタックの設置場所だ。ミライがフロントシートした付近にFCスタックを設置しているのに対して、クラリティFCはフロントボンネット内に収めている。クラリティFCのボンネットは、かなりギチギチに色々なパーツが詰め込まれている。

これは、将来的に既存のボディを大きく変更することなくクラリティFC用に使えることを示している。例えば、アコードハイブリッドなどと混流生産が可能になるかもしれないということだ。こうすることで、大幅にコストダウンできることになる。ミライは、ほぼすべてが専用設計で専用ラインによるもの。現在は、ほぼ手作りに近い生産方式だ。今後、こうした差が、どれだけ販売価格に影響してくるのかという点も注目していきたい。

さて、クラリティFCの価格は7,660,000円。トヨタ ミライの価格は7,236,000円。クラリティFCが約42万円高価な設定となっている。装備が若干違うので単純比較できないが、FCスタックをボンネットに収めたことによるコスト面の優位性は、現段階では出ていない。

ホンダクラリティフューエルセル新聞やテレビなどでは、FCVの価格が今後の課題としている。平成27年度の補助金では最大208万円支給されることを前提にすると、トヨタでいえばクラウンハイブリッドの上級モデルと同等程度になっている。補助金が無くても、このクラスの輸入セダンと同じ程度の価格なのだ。既存のガソリンエンジンを使う輸入車と同程度の価格で、世界をリードするFCVが買える価格設定というのは、トヨタもホンダも大赤字の大バーゲンともいえる。こうした高級車を買える顧客が、FCVを積極的に購入するようになれば、さらにコストは下がりFCVの普及に弾みがつき、インフラ整備も加速するだろう。

クラリティFCは、初年度で200台程度の企業・自治体中心のリース販売になる。これは、少々微妙だ。一般の顧客が買えないのでは、インフラ整備も進まない。ホンダもまだまだ、一般の顧客に売る自信が無いとみられても仕方のない状況だ。こうした部分では、トヨタ ミライが圧倒する。ミライも年間400台と少ないが、クラリティFCの倍以上を販売し、リースではなく個人への販売も行っている。売り先の企業や自治体にリース販売というパターンは、何かあれば車両を回収しやすいというリスク軽減にある。ミライは、個人顧客にも販売できるという商品への自信がある。この差は大きい。

日本政府は、こうしたFCVを含んだ水素社会への転換する技術を世界にアピールし、日本がリードする技術として輸出し経済を活性化させる狙いがある。とくに、FCVの特許に関しては、日本が一番多いとも言われているほどだ。2020年の東京オリンピックでは、こうした水素社会を世界にアピールできるチャンスともしている。こうした政府の戦略もあり、ホンダもFCVの発売を急かされた感もあり、やや物足りない売り方になったのだろう。とはいえ、化石燃料に縛られた自動車社会が、さらに新たな一歩を刻めたことは日本人として誇りにしたい。

・乗車定員 5名
・パワートレイン モーター 最高出力 130kW/4,501-9,028rpm[最高回転数:13,000rpm] 最大トルク 300N・m/0-3,500rpm 種類 交流同期電動機
・燃料電池スタック 最高出力 103kW
・種類 固体高分子形
・駆動用バッテリー 種類 リチウムイオン電池
・燃料タンク 種類 圧縮水素
・タンク内容量 141L(前方24L/後方117L)
・公称使用圧力 70MPa
・寸法(全長×全幅×全高) 4,915mm×1,875mm×1,480mm
・車両重量 1,890kg
・全国メーカー希望小売価格(参考価格) 7,660,000円(消費税込み)