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<価格設定はやや高め。趣味のクルマとしてなら、価値はある「ジーンズ アップ!>

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

<価格設定はやや高め。趣味のクルマとしてなら、価値はある「ジーンズ アップ!>

フォルクスワーゲンは、スモールかーのアップ!(up!) に300台の限定となる特別仕様車「jeans up!(ジーンズ アップ!)」を設定し発売を開始した。

フォルクスワーゲン アップ!は、国内のフォルクスワーゲンラインアップ中、もっともコンパクトなモデル。2012年に日本へ導入され、全長3,545×全幅1,650×全高1,495㎜というボディサイズをもつ。ひとクラス上のポロの全長がが3,995㎜なので、450㎜も短いボディサイズだ。この3,545㎜というボディサイズは、ポロクラスより、軽自動車に近いサイズだ。軽自動車の全長は3,395mmなので、150㎜大きい程度。全長の比較なら限りなく軽自動車 に近い全長をもつクルマなのだ。そのため、アップ!の購入時に軽自動車が下取り車として多く入ってくるという。

アップ!に搭載されるエンジンは、1.0L直3で75ps&95Nmを発揮する。燃費は25.9㎞/Lを誇る。アップ!の最大トルクは、軽自動車のターボ車程度の実力だ。

2012年にアップ!が日本に導入されたとき、話題となったのが自動ブレーキ。約30㎞/h以下で追突被害軽減できるシティエマージェンシーブレーキを標準装備していた。当時の国産車には、より高度な自動ブレーキであるアイサイトなどがあったが、このクラスで30㎞/h以下とはいえ標準装備化されたクルマは無く、非常に話題となった。サイズが軽自動車と近いアップ!だけに、軽自動車への影響は大きく、軽自動車の自動ブレーキブームのきっかけとなったクルマと言える。

アップ!の登場以降、軽自動車の自動ブレーキの進化はイッキに加速した。今では、歩行者検知式自動ブレーキや車線逸脱警報などまで用意されていて、すでにアップ!の自動ブレーキレベルを大きく超えている。こうなると、一世を風靡したアップ!とはいえ、少々分が悪い。ただし、すでに戦闘力不足となった自動ブレーキ以外では、サイドエアバッグが標準装備されているなど、日本の軽自動車を超える装備を誇る。ベーシックな技術は、出し惜しみせずに洗車標準装備化させ、基本的な安全性能の底上げを図っているのはさすがだ。

また、このユニークで愛嬌のあるデザインもマーケットで高く評価された。さらに、価格戦略面でも当時149万円からという軽自動車並みの価格設定で話題となった。クルマのパフォーマンスや価格戦略などにより、アップ!は良く売れた。

フォルクスワーゲンを支える人気車となりそうだったアップ!だが、徐々に輝きは失われていく。軽自動の乱売が始まったり、消費税増税も加わり、ハイオク仕様のスモールカーが売れにくい環境となった。こうなると、税制面でも不利なアップ!の販売は厳しい状況になっていく。

さらに、北米でのフォルクスワーゲン ディーゼル車不正問題が発覚する。国内に入っているクルマには問題が無かったのだが、ブランドイメージが大きく傷ついたため、国内販売も大幅減となる。しかし、2016年になり心機一転し、最繁忙期である2~3月を乗り切り一定の販売台数を確保しなければ、2016年もジリ貧となる可能性が高くなる。そこで、登場したのが限定車ジーンズ アップ!ということになる。

ジーンズ アップ!は、ムーヴアップ! をベースとした限定車。個性的な専用アイテムと上級モデルに標準装備している機能を採用している。車名のジーンズ アップ!から分かるように、ジーンズがテーマ。すべての座席にジーンズ調のシート生地を採用し、カジュアルでオシャレなインテリアにしている。その他の装備では、ステアリングホイールやハンドブレーキのステッチをブラウンにすることで、ジーンズのステッチをイメージさせている。

エクステリアは、ベースモデルの設定には無い特別色のピュアホワイトを採用。クロームで縁取ったフロントフォグランプ、クロームドアミラー、日本では初採用となるデザインの15インチアルミホール、ジーンズ アップ!のロゴステッカー(左右ドア上部)、左右ドア下部には、デコレーションフィルムを標準装着した。

さて、ジーンズアップ!の価格は1,939,000円。ベースとなるムーヴアップ!の価格が1,756,000円なので、183,000円の価格アップとなっている。ベースの車両価格に対して、10%以上の価格アップなので、お買い得な仕様ではないことが分かる。装備アップ分に関しては、価格アップ分相当といったところだろう。

300台限定にして、少々高めでも売り切ることで年間の販売台数を確保したい狙いがあるにせよ、もはやアップ!そのものが4年目に入り大幅マイナーチェンジの時期に入っているクルマなので、少々新鮮味に欠けている。さらに、自動ブレーキや燃費性能など、軽自動だけでなく日本のコンパクトカーと比べても戦闘力は落ちてきている状況だ。個性的なクルマなので、買い得感があるのなら別だが、とくに買い得感がある訳ではない。あえて、今アップ!を選ぶ理由がないのだ。その理由付けの手法がこのジーンズ アップ!なのだろうが、タイミングが悪い。2017年には消費税増税が予定されていて、増税前の駆け込み需要が高まるのも秋口に入ってからだ。そのため、今こうした限定車が欲しいと感じるのは、ジーンズアップ!の世界観が気に入ったという顧客でなければ、価格的にも選びにくい仕様ともいえる。

さらに、実際の商談では限定車だから「値引きゼロ」というセンスの無い発言をする営業マンが出てくる可能性が高い。こうした営業トークを真に受けてはならない。そう簡単に300台売り切るのは難しいと思われるので、まずはムーヴアップ!で商談を開始して一定の値引きを引き出した後、対象をジーンズアップ!に変更してみよう。当然、値引き額はムーヴアップ!と同じ金額を要求したい。お買い得な特別仕様車ではないので、利益もでているはずなので、根気よく商談を続けるといいだろう。また、3月に入れば、軽自動車も一定の値引きをして台数稼ぎに走る。スズキ スペーシア やダイハツ タント といった軽自動車 や、マイナーチェンジしたばかりのフィアット500、トヨタ パッソなどと競合させてみるのもいいだろう。

■フォルクスワーゲン ジーンズアップ!価格:1,939,000円