これまでの燃料電池車は、その多くが既存のクルマを改良する形で燃料電池車を作ってきた。そのため燃料電池スタックや水素タンクをどう搭載するかなど、いろいろな苦労があり、いかにも試作車といった感じのクルマだった。
それが今回のFCXクラリティでは、最初から燃料電池車であることを前提に開発が進められ、基本パッケージングも燃料電池車のためのものとして作られている。結果として見るからにカッコ良い4ドアセダンの燃料電池車が作られた。
思えば、2005年の東京モーターショーに、ホンダはFCXコンセプトと呼ぶコンセプトカーを出品していた。あのコンセプトカーのイメージをそのまま形にしたのが今回FCXクラリティといっても良い。
全長が4845mm、全幅が1845mmというかなり大きなサイズのセダンだが、フロントからルーフへ、そしてリヤへと流れるようなラインで構成されるデザインは、セダンではなくクーペを思わせるものだ。フロントにエンジンがないためノーズが切り詰められ、センターコンソールの部分に燃料電池スタックを搭載し、水素タンクは後輪左右の間に搭載するために床面がフラットで低く、燃料電池車ならでのパッケージングを実現した。
インテリア回りのデザインもメーター、シート、ドアトリムなどいかにも先進的なもので、普通のクルマに乗ったのとは違う特別の気分に浸れる。乗車定員が4名のため後席にもゆったりと座れる広さが確保され、乗る人すべてが異次元の空間にいるような気分になれる。
こうした専用ボディを用意したことは、ホンダが将来的に燃料電池車の市販を本気で考えていることの表れである。実際、生産ラインでは水素タンクの搭載搭載方法で新しい生産技術を開発しているし、燃料電池のセル部分についても量産化技術を実現している。ワンオフで作るのと、量産するのとでは生産上に大きな違いがあるが、FCXクラリティではそれを超える開発が進められた。
このほかにも、家庭用の燃料電池システムを開発し、太陽光や風力などを使った自然エネルギーで発電し、その電気を使って電気分解で水素を作り、その水素で燃料電池を働かせて走り、水だけを排出するという完全な循環システムまで想定している。このあたりもホンダの本気度を示すものだ。