日産GT-Rって本当に凄いのですか?
今や日本中の自動車関連誌は、どこも「日産GT-R万歳」な印象だ。まあ、それはそれでいいのだが、困ったのは自分自身の気持ちの問題。根っからの天邪鬼というのだろうか、せっかく日産GT-Rに乗せていただく機会を得たというのに、イマイチ日産GT-Rのパフォーマンスを素直に受け入れられていない。一言で言うのなら「ホントに凄いの日産GT-R?」といった気分なのだ。
そのひとつの理由が日産GT-Rの開発責任者の水野さんのトークである。この水野さんという人、とっても弁が立つ。説得力がある。それゆえ「アヤシイ」。失礼な言い方だが、ちょっと「オレ、騙されてる?」と思うほど、水野さんの話はうま過ぎるのだ。たぶん、先にGT-Rに乗ってから水野さんの話を聞いたなら、誰もが水野さん信者になったであろう。ところが、悲しいかな3流自動車編集者にはなかなかGT-Rに乗せていただく機会が回ってこない。世の中には「GT-R万歳!」記事があふれていた・・・。で「ホントに凄いの日産GT-R?」という疑いの心が、水野さんの雄弁さを上回る結果となったのだ。
さて、試乗だ。シートに腰をかけると、この手のクルマに比べると意外なほど着座位置が高い印象を受けるだろう。シートポジションを合わせ、エンジンスタート。トランスアクスルのデュアルクラッチ式ミッションをATモードにしてユルリとアクセルを踏むと、480馬力を発揮するスーパーマシンはあっけなく走り出す。ステアリングをフルに切っていたためか、ゴッゴッっと機械式LSDの音。やっぱりただのクーペとは違うことを再確認。ただし、乗り心地はただのクーペのほうがうらやましく思える。前後20インチのランフラットタイヤとノーマルモードのサスペンションは、街中の走行ではかなりカタイ。ゴツゴツと路面の凹凸を容赦なくドライバーに伝える。ある程度スピードが上がると多少乗り心地は良くなるものの、基本的にゴツゴツ感はなくならない。高速道路などの路面の継ぎ目に関しても同じ。年老いた夫婦二人がのんびりと優雅に移動するためのクーペとは違う。思いっきりレーシングな乗り心地だ。
優雅というよりは、エコノミーなインテリア
車内の騒音も結構にぎやか。会話の明瞭度という点では十分なものだったが、30万円以上するボーズのサウンドシステムを結局最後まで楽しむ気にならなかった。比較しやすいように乗ってきたBMW M6の方が静かで乗り心地も快適だ。インパネ回りの質感は想像以上。ただ、100万円台の日産車に採用されているものと同じカタチをしているエアコンの吹き出し口のシャッター、アルミ風のドアノブなどなど、コストダウンの片鱗を感じるところが少々気になった。GT-Rというクルマは、機能部分に関する部分は並々ならぬ情熱とこだわりを感じるが、インテリアに関しては非常にさめた感じでまとめてあるような気がする。
クルマは走ってナンボというならば、GT-Rはまさしくそんなクルマ。色の白いは七難隠すというが、GT-Rに置き換えると圧倒的な速さは七難隠すである。他の気になるポイントなんてどうでもよくなる説得力のある速さだ。480馬力、60kg-mというスペックからは、畏怖さえも感じるが、そのパワーとトルクはすぐに快感に変わる。GT-Rは一旦リヤにあるミッションにカーボン製のプロベラシャフトでパワーを伝え、さらにまたここからもうひとつのシャフトでフロントタイヤを駆動する4WD機能をもつ。あり余るパワーを効率よく使える機能のおかげで躊躇なくアクセルが踏める。シフトスピードが速いRモードにすると0.2秒というデュアルクラッチミッションとターボエンジンの組み合わせも格別で、加速が途切れることがない。
直線だけでなく、コーナーリング中も恐ろしく速い。個人的にこんな横Gを発生するクルマに乗ったのは初めてだ。コーナーリング中にアクセルを開けると、リヤタイヤがちょっとズルっとする瞬間がある。フツーはココでアクセルを絞るのだが、GT-Rはここからもジワジワ踏めるのである。リヤが滑ると瞬時にフロントタイヤにトルクがまわされフロントタイヤが車体を引っ張るのだ。そのため、予想を遥かに超えたコーナーリングスピードで曲がることができた。ホイールのセンターより低い位置にトランスアクスルを設置し、低重心化されるなどの恩恵も大きいだろう。
ブレンボ&ビルシュタイン、有名ブランドを使いこなす!
足回りも素晴しい。荒れた路面で高速からブレーキをドンっと踏んでもハンドルを取られることなく、しっかりと路面を捉えて放さない。これが、ビルシュタイン製ダンパーの魅力なのか。多少、一般道で乗り心地が悪かろうが関係なくなるほどの絶妙なロードホールディング性能だ。
ブレンボのブレーキも絶品。タッチはともかくよく効く。減速時のイメージは、グウゥと前方にGが働くものだが、フロント6ポッド、リヤ4ポッドのブレーキはまさに別物。ガツンとブレーキを踏むと、ドカンと真下にGがかかるようなイメージで減速する。クルマ全体が路面に吸い付くといった感じだ。アッという間に減速終了である。路面を放さないサスペンションとの組み合わせは最高で、コーナーの奥までブレーキの踏力を緩めずに突っ込めるイメージだ。その上、このブレンボは根性まである。タイヤがセミウェットでほんのり湯気を出しているのにもかかわらず、フェードの兆候すらない。煙もでない。臭くもない。超クールなブレーキだ。
と、まあ気がつけば私もしっかり「GT-R万歳!」なのであった。コレだけ凄いGT-Rも、サーキット以外ではあっという間に180km/hのスピードリミッターが効いてしまう。高速道路の最高速は100km/hだが、最後の最後には欧州のハイパフォーマンスカーに軽く抜かれてしまう。せつない話です・・・。というわけで、フロアがフラットで空力にも優れ200km/h以上でも路面に吸い付くように安定するという走りは確かめることは、日本の一般道ではできません。GT-Rすべてのオーナーがサーキットを走るわけではないので、スピードリミッターの存在がとてももどかしい。まさに、宝の持ち腐れってヤツだろう。GT-R最大の不満はスピードリミッターかも。