「YES!」このクルマの車名をはじめて聞いたという方のために、簡単にそのプロフィールをお伝えしよう。
ドイツ・フランクフルトの東に位置する街、グロッセンハイムで、2000年に創業した新生自動車メーカー「ファンク&ウィル」社にて生産。あくまで、スパルタンなスペシャリティカーの開発にコダワリ、少量生産ながらも、高い技術を有し、創業4年目にして、ドイツの権威ある企業賞「EMERRGING」を受賞。
以前は航空機の格納庫だったという現工場には、3.5キロにも及ぶ、滑走路が併設され、日夜、テストドライブが繰り返されている。また、顧客のドライヴィングレッスンも、この滑走路を使用して定期的に行われるという。
この「YES!」には、現在、VWからエンジン供給を受け独自のチューニングを施した「ロードスター1.8ターボ」、「ロードスター3.2」、「クラブスポーツ」、「CUP/R」が選択できるが、この度、新たに「ロードスター3.2」をベースにターボチャージャーを装着した「ロードスター3.2ターボ」をデビュー。初夏の風香る、山中湖にて発表試乗会が開催されたので、早速足を運んできた。
用意された試乗車は「ロードスター1.8ターボ」と新登場の「ロードスター3.2ターボ」の2台。詳細なスペックは後ほど紹介するとして、この2台の動力性能は、最新のポルシェ911ターボ(997型)を軽く凌ぐ動力性能の持ち主。一般公道での試乗ということも考慮し、マイルド?な「ロードスター1.8ターボ」を選択した。
エクステリアを一言で表現するなら、子供達に大人気のカードゲーム、甲虫王者「ムシギング」に出てくる「コーカサスオオカブト」のような面構えだ。老若男女問わず、このクルマの“性格”は、エクステリアを眺めるだけで、十分説明がつくだろう。事実、撮影をしていると、遠足にきていた小学生の集団に囲まれてしまった…。「うわー超速そう」といった具合だ。
「YES!」の骨格は、強固で軽量なアルミスペースフレームに、FRPのボディで覆い、レーシングユーズにも耐えられる極めて高い車体剛性と軽量化を実現。実にその車両重量は830Kg!にまで絞られている。これにより、ベースグレードの「ロードスター1.8ターボ」でも、0-400m 10.9秒、0-100km/h 4.2秒、0-200km/h 12.2秒という、“浮世離れ”したスペックを実現している。
まあ、前置きはともかく、早速乗り込んでみることにしよう。
スーパーカーブーム世代末期の私にとって、ガルウイングドアを跳ね上げる行為は、自然と興奮を隠せない。しかし、某イタリアの猛牛と違い、開閉は非常に軽いものだった。
エンジンの火入れには、コックピットドリルを受ける必要があった。さすがに、屋根がなく、オプションを装着すると軽く一千万円を超えるクルマだけに、セキュリティシステムは万全。キーにセットされたボタンを2回押し、センターコンソールのセキュリティ解除ランプを確認後、エンジンは始動可能となる。
基本は、VW製の1.8リッター5バルブターボエンジンのため、気難しいところは皆無。しかし、ターボの過給圧アップ、吸排気系、CPUなどチューニング箇所は多岐に渡り、本来の150psから実に286ps!まで出力を向上。830kgというライトウェイトボディに、このエンジンの組み合わせを考えると、少々緊張感を覚えずにはいられなかった。
「ゴルフ�」R32のMTモデルとほぼ同等の踏力を要求するクラッチは、軽く、ミュートポイントも掴みやすい。アイドリングのまま、クラッチから足を浮かしても、スルスルと柔軟にタイヤを転がし、ストールの気配すら見せない。これなら、渋滞でも全然問題なさそうだ。
ところがである。試乗会場を後にし、交通量の少ないワインディングロードに出て、アクセルを踏み込むと、今時珍しい程のターボラグのあと、レブカウンターの赤い指針が3500rmを超えた途端、一気にターボパンチが襲ってきて、一瞬、フロントの舵が抜ける感覚を覚えた。これぞ、まさに“ドッカンターボ”という奴である。コーナー進入時には、このターボラグを十分頭に入れておかないと、立ち上がりの際に思ったほどの加速を得られないこともあるが、過給域では、痛快の一言。日本国内の道路上では、コーナリング、動力性能を含め、このクルマの限界域に踏み込むことは不可能ではないか?と感じるほどだった・・・。
ブレーキは、前後ともにイタリア・ブレンボ製の4ピストンを備えている。830kgというライトウェイトには、オーバースペックともいえるが、このブレーキには、倍力装置が備わっていない。一般的な踏力では、制動が立ち上がらず、迫りくるコーナーに一瞬、焦ったが、蹴飛ばすように踏みつけると、瞬間的に速度を削ぎ落としてくれる。感触としては、「フェラーリF-40」のそれに最も近いフィーリングだった。まさに自らの“踏力”が、倍力装置なのだ。
乗降性に関しては、ドアのサイドシルを跨ぎ、“もぐり込む”といったものなので、決してよいとはいえない。助手席に女性を乗せる場合は、スカートは厳禁、エスコートは必須である。
しかし、一度収まってしまうと、ノンアジャストのレカロ製レザーシートが、身体を隙間なくホールドし、クルマとの一体感を味わえる。また、フロントの大きく隆起したボンネットラインのおかげで、車幅感覚もとても掴みやすい。
正面にはいかにもハンドメイドといったアルミ削り出しのメーターパネルに、ドイツVDO社製の計器類が合計7個装備され、さながら、現代の「スーパー7」といった雰囲気である。
一媒体45分間という短い試乗だったため、「YES!ロードスター1.8ターボ」の極々、断片的な性能しか体験できなかったが、ノンアシストのダイレクトなステアリング&ブレーキ、そして、恐怖すら覚える俊敏な加速性能。どれをとっても、現在の自動車が忘れている“人車一体感”を味わうことが出来た。
わが国の自動車メーカーでは、このような“走る為”のクルマの生産は、期待できないが、電子デバイスに頼らない操作性と、最新技術の信頼性を備えた「YES!ロードスター1.8ターボ」。クルマを操ることを趣味をする一部のエンスージャストのために、このようなクルマが、現在でも存在していることに、私は、敬意を表したいと思った。