ABSとは?どんなシーンで活躍する?仕組みを理解して安全運転を

 

ABSとは?どんなシーンで活躍する?仕組みを理解して安全運転を

ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の仕組みや使い方をご存知ですか?

障害物があって急ブレーキを踏んだときや滑りやすい地面を走っているときなど、ABSを正しく使用できれば危険を回避できます。

今回は、ABSの仕組みやブレーキのかけ方について解説します。また、異常ランプが点いてしまったときの対応についても紹介します。

ABSとは

ABSとは「アンチロック・ブレーキ・システム」の頭文字をとった略称です。強くブレーキを踏み込んでも、タイヤをロックさせることはありません。これにより強いブレーキ中でもハンドル操作が可能となり、障害物を減速と同時に回避しやすくなりました。

またABSは各タイヤへのブレーキを個別で制御できる特徴があります。これを応用し、滑りやすい路面でのトラクションコントロール(車の発進・加速時にタイヤが空転するのを防止する装置)や車両の姿勢制御、コーナリング時の横滑り防止装置などでも応用する形で使われていますし、自動ブレーキの場合はドライバーのブレーキ操作無しでも作動します。

ABSが必要とされるシーンとは

ABSが活躍するのは雪道や凍結路面といったタイヤがスリップしやすい路面。本来この様な路面で強くブレーキを踏み込むと、タイヤがロックされると同時にスリップし、車はコントロールを失ってしまいます。

スリップしやすい場面で使われる運転技術として「ポンピングブレーキ(小刻みに何度かに分けてブレーキをかけること)」というのものがありますが、人のブレーキ操作では4つのタイヤを個別に制御できません。

つまり、それぞれのタイヤが持つグリップ力を最大限引き出すことはできないのです。

ABSではタイヤをロックせず、車両をコントロールする範囲に留め、それぞれタイヤの独立制御によってグリップ力を最大化することにより、確実な減速と車両コントロールが可能となるのです。

ABSを作動させるためのブレーキのかけ方と仕組み

ABSを応用したトラクションコントロールや横滑り防止装置においては、ドライバーの意思に関わらず自動でブレーキがかかり、どのタイミングで作動しているかは分かりにくいもの。
通常のブレーキ操作中もABSは常にタイヤの動きなどをチェックしているのですが、実際に「ABSが介入しなければならない」という判断がされない限りブレーキは作動しません。
ではABSを使うブレーキとはどのようなものなのか?仕組みとあわせて紹介します。

ブレーキのかけ方

まずABSが作動する場面は、強いブレーキを必要とする「急ブレーキ時」です。このときに力いっぱいに踏み込めばABSは作動します。

ブレーキペダル周辺から音や振動することがあるのですが、これはABSが正常に作動するときに発生する物です。この振動などに驚いてブレーキを緩めないことも大切です。

ABSの仕組み

ABSは主に「車両の減速度やタイヤの回転数を見ているセンサー」「ブレーキの油圧を作り出す油圧ポンプ」「圧力を調整するためのバルブ」で構成されています。

センサーは必要なブレーキの強さを判断するために使われます。特にタイヤの回転数を計測する「車輪速センサー」は、タイヤがロックされていないかをチェックするのに重要です。油圧ポンプはブレーキの為の油圧を作ると同時に、余分な油圧を抜き取って下げる役割も持ち、その切り替えは油路の間にあるバルブで行っています。

ABSが作動している間、車の中では以下の1~6のような現象が生じています。

  1. 強いブレーキを踏む
  2. 車輪速センサーがロックしそうなタイヤを検知
  3. 減圧用のバルブが開き、余分な油圧をポンプで吸い上げブレーキを弱める
  4. ブレーキが弱まったタイヤは回転しはじめる
  5. ブレーキのかかっていないタイヤは回転が速くなる
  6. 減圧用のバルブを閉じ、ポンプで油圧を送り出してブレーキを強める
  7. ※ブレーキが続き、車両が十分減速するまでの間2~6を繰り返す

これを4つのタイヤそれぞれで独立して制御しています。

ABS作動時に動く油圧ポンプやバルブの動きによって、常にブレーキ内の油圧が変化します。その変化がブレーキペダルへの振動や音となって、ドライバーの足に返ってくるのです。

また、ABSには急ブレーキ時の油圧の増加をする「ブレーキ・アシスト・システム」という機能もあります。急ブレーキが必要な緊急時において、パニック状態になったドライバーは速くブレーキペダルを踏むことはできますが、ブレーキに必要なだけの力強い踏み込みを行うのは困難です。つまり、タイヤをロックする程の強いブレーキができないのです。

その様な場合、ABSはブレーキペダルの踏み込み速度からドライバーの急ブレーキの判断を読み取り、ブレーキ力が足りない場合においては油圧ポンプを作動させることによって不足分を補うのです。

ABSで必ずしも制動距離が短くなるとは限らない

ABSによるタイヤをロックさせないブレーキでは、かえって制動距離(ブレーキをかけ始めてから停止するまでの距離)が伸びる場合があるというデータも存在します。

以下のような状況では、タイヤをロックさせた方が(ABSを作動させない方が)制動距離が短くなるとされています。

  1. 新雪路
    ロックさせた状態が一番摩擦抵抗を得られます。
  2. 砂利道
    タイヤをロックさせる=タイヤが転がらない事で障害物を乗り越え難くなり、結果としてその場で止まりやすくなります。
  3. 凸凹道や段差
    タイヤをロックさせる=タイヤが転がらない事で障害物を乗り越え難くなり、結果としてその場で止まりやすくなります。
  4. タイヤチェーン装着時
    タイヤをロックさせたほうが路面に食い込みやすくなるため。

ただし、タイヤをロックさせることは車両のコントロールを失うリスクもあるため、ABSによるブレーキを行うほうが安全といえます。

ABSランプ(警告灯)とは

自動車のメーターには様々な警告灯がありますが、その中にABSの警告灯もあります。これが点灯するとABSに何かしらの異常が発生した可能性があることを意味します。

では、具体的にはどの様な場合に点灯するのでしょうか?

ABSランプが点灯したときの意味

まずエンジンを始動したときにABS警告灯が点灯しますが、これはABSの機能のチェック中という意味になります。ここで異常がなければ数秒で消灯します。消灯したということはABSがしっかりと作動しているということです。

しかし、その警告灯が消えない場合や、走行中に点灯する場合もあります。これらの場合ではABSの中で何かしらの不具合が起きている可能性があります。

ABSランプ点灯の原因とは

様々なセンサーなどの不具合が考えられますが、一番多いのが各タイヤの回転数を検知している車輪速センサーの異常です。

センサー部の汚れなどで回転数が一時的に読み取れなくなり、他のタイヤの回転数と比較して異常な数値が出る事によっても点灯するからです。

例えば4輪ともジャッキアップした状態や、雪道でスタックしている時にアクセルを踏むとします。

この場合、駆動輪は勢いよく回りますが、駆動輪ではないタイヤは全く回転しません。通常の走行ではありえない、この回転数の差をABSでは異常と判断することがあるのです。

車輪速センサーによる一時的な誤検知の場合は、通常の走行を続けることでABSランプは消灯します。

また、メーカーによっては、テールランプの球切れやアース不良でも点灯する場合があります。

テールランプもブレーキシステムを構成する部品ですから、検知するシステムを組み込むことが可能です。テールランプの球切れやアース不良が発生することでシステム全体の電圧が変化しますので、その変化を異常と判断してドライバーに知らせるのです。

ABSは正常でも、メーター上のABSランプそのものもショートしてしまい、ランプが付きっぱなしになるというのも考えられます。これはABSランプに限らず、全てのランプ類で起こる可能性のある不具合ですが、これを判断するには点検をしてみないことには分かりません。

ABSランプが点灯したときはどう対処するべき?

ABSランプが点灯し続けている場合、ABSの機能が停止している可能性があります。

この状態で強いブレーキ操作を行うと、タイヤがロックされ車両のコントロールを失う可能性がありますので、ブレーキ操作は慎重に行ってください。

また、ABSランプと同時に赤いブレーキ警告灯が点灯する場合は、ABSも含めたブレーキシステム全体での大きな不具合の可能性も考えられます。ABSはおろかブレーキそのものが動作しない可能性もありますので、すみやかに運転を中止し、安全な場所に車両を停止させましょう。

ブレーキ関係の不具合は重大な事故を招く可能性が高いです。途中でABSランプなどが消えてしまうこともありますが、原因不明の場合は整備工場にて点検・整備してもらいましょう。

これらの異常を知らせるランプが途中で消えたとしても、車両内のコンピューターには不具合を検出したときのデータとして記録されています。整備工場ではこの記録されたデータを元にして不具合を見つけ出すことができます。

ABSの仕組みを理解して安全運転を!

現在一般に流通している車両のほぼ全てがABSを標準装備しています。

サーキットやレースのような競技の場面では、ABSの機能を使用しないことがありますが、これは競技を行えるだけの熟練ドライバーであることが前提となっています。

逆にいえばABSの無い状態での強いブレーキングというのは、それだけの熟練ドライバーでなければ車両をコントロールできないものであり、人間の代わりにブレーキを行うABSの精度は非常に高いのです。

ABSによるブレーキがあるといっても、ABSを有効に使うには、その使い方も知っておく必要があります。また電子的なシステムなので、エラーや不具合を起こす可能性は常にあり、ABSがいつでも有効に機能するとは限りません。

ABSはあくまでもドライバーの補助装備。ABSが本当に必要にならないように、より一層の安全運転を心がけると同時に、常にABSが正常に動くように小まめな点検や修理を行うようにしましょう。

Supervised by norico編集長 村田創

norico編集長_村田創

中古車のガリバーに勤務して20年以上のベテランが車の知識をわかりやすく解説します。車のことは、多くのメーカーを横断して取り扱うガリバーにぜひ聞いてください。「車ってたのしい!」を感じてほしいと思っています!