ザ・対決 フィアット チンクエチェント VS ミニ
伝統の車名コンパクト編
フィアット チンクエチェント vs ミニ

 世界のコンパクトカーの礎を築いたと言われているのが、FFという点でミニ。そしてパッケージングや機構の面ではフィアット500(チンクエチェント)だ。どちらも1950年代に姿を現わして、大きなヒットを飛ばしつつ、その後の車両開発や設計、デザインに多大なる影響を与えたといっていい。そのコンセプトを受け継ぎ、ニュー・ミニと呼ばれるのがBMWが生み出す現代流のミニ。可愛さはそのままで、さすがドイツ車という質の高さを誇っている。一方、トレピウーノの名前で各モーターショーで進化し続け、ついに市販化されたのがフィアットのチンクエチェントだ。あの、ころっとしたボディと犬のような顔はじつに愛嬌があるし、オリジナルのデザインを現代流にうまくアレンジして再現しているのは、さすがイタリアといったところか。今回は「昔の名前で出ています」対決。どちらもBセグメントに属しているだけに、それぞれの実力についても興味津々だ!

PHOTO/和田清志 構成/近藤暁史
モデル/

ROUND1:ファーストインプレッション

フィアット チンクエチェント
フィアット チンクエチェント リヤ
往年のオリジナルスタイルと
実用的で不満のない走りを両立

 2004年のジュネーブショーで姿を現わしたのが「3+1」(トレピューノ)と名付けられたコンセプトカー。往年のフィアット500をモチーフとした、可愛らしいスタイルで話題になったものの、フィアットは大赤字を抱えて窮地に陥っていただけに、市販化は無理と見る意見も多かった。よくある、懐かしのスタイルコンセプトカーのひとつとしてしか見られなかったわけだ。しかし、その後、各モーターショーで市販化を前提としたコンセプトが発表され、昨年ついに発売となった。ベースはニュー・パンダとしたことからサイズ的には当初よりも大きくなってしまったが、そのスタイルは変わらず。鏡餅のような独特のスタイルとキュートな顔つきはオリジナルの雰囲気をうまく表している。ちなみに生産はニュー・パンダと同じ、ポーランド工場だ。
 1.2リッター(69馬力)と1.4リッター(100馬力)、2タイプのエンジンとミッションもニュー・パンダのモノを基本的に流用しているが、そのセッティングは大幅に進化。エンジンは下から上までキッチリと使え、評判のよくなかったデュアロジックと呼ばれる2ペダルのセミオートマもつながりがかなりスムーズになったのは注目すべき点だ。日本車から乗り換えると、さすがに違和感があるかもしれないが、すぐに慣れるレベルだ。
 インテリアもメーターまわりやインパネ、細かいところではドアオープナーなどオリジナル風のデザインで仕上げられており、センスよくさすがイタリアといったところ。スペース的には正直狭く、まさに大人3人と子供1人がせいぜいだ。

[エコ&燃費]
 1.2リッターエンジンはなんと80年代に登場したもの。すでに20年以上経っているだけに、いくら手を加えても環境性能的には厳しい。それでも燃費は15.6km/Lだから立派といえば立派だ。一方、1.4リッターは16バルブで比較的新しく、電子スロットルや可変バルブタイミングなどを採用し、09年から施行予定の排ガス規制、ユーロ5にも適合している。

[安全性能]
 じつは安全性もチンクエチェントの自慢のひとつ。フロントまわりにはなんと7つものエアバッグが標準装備されている。ただしリアまわりはひとつもないが……。そのほかABSには制動力を自動分配するEBDや横滑りを防止するESPまで標準装備。このESPには坂道発進をアシストするヒルホールドシステムも付いているほどで、じつに贅沢だ。さらにフィアットの伝統(?)である火災防止装置ももちろん付いている。

[取材時実測燃費]
13.6km/L

[チンクエチェント価格帯]
222.0〜250.0万円

ミニ
ミニ リヤ
ミニのオリジナリティと
BMWの高い技術のコラボ

 横置きFFの2ボックスという、新しいコンセプトを世界に先駆けて確立したのがミニ。初代は長きに渡ってスタイルを変えずに生産され、今ではBMWによって作り続けられているというのはご存じの通り。BMWになってからのミニは、現行で2代目。先代と現行型ではそれほど変わっていないようにも思える。だが、実際は99%ものパーツが新たに開発されており、先代からの流用はルーフ程度だという。ミニという強烈なブランドイメージゆえに、あえてイメージは変えないというのが正解だろう。インテリアも先代同様で、初代をモチーフにしたセンターメーターがドンとインパネ中央に位置し、その他のスイッチ類はあえてゴツさを演出して、コクピット感を強調する。操作感は意外にいい。エンジンはBMWとPSA(プジョー/シトロエン)の共同開発で、BMWが生産。先代のエンジンはクライスラー(ダイムラーは関係なし)との開発ユニットだっただけに大きな進化だ。1.4リッターが1タイプと1.6リッターが2リッターで、後者はNAとターボとなる。今回取材に連れ出したのは1.4リッターを搭載するONEで、可変バルブタイミングを採用するなどして、95馬力を発生。扱いやすくて、実用性に溢れる味付けだ。一方1.6リッターのNAはバルブトロニックを採用して120馬力を発生。ターボは175馬力で小型のツインスクロールタービンで、低速からもキッチリとパワーが出る点に注目だ。足回りもFRのようなFFとBMWが自慢するように、グイグイと曲がる踏んでいけるセッティングで、操る楽しさたっぷり。高速でもフラットライドで、レベルの高さを見せつけてくれる。

[エコ&燃費]
 1.4リッターでは可変バルブタイミングが付くなど、積極的な制御を行なうことで、環境性能も高いレベルにある。また車重は先代から変えず、エンジンのポテンシャルを向上させており、燃費はなんと23%もアップしている。さらにオイル交換を2.5万km/2年毎に指定するなど、メンテでの省資源にも力を入れている。

[安全性能]
 ボディ自体の剛性を高めているのはもちろんのこと、本国ではオプションになる装備も標準化しているというだけに、安全性も高いレベルにある。エアバッグは6つで、横滑り防止装置のASC+Tも全グレードに標準で付く。欧州のユーロNキャップで、最高の5つ星を獲得しているほどだ。

[取材時実測燃費]
13.1km/L

[ミニ価格帯]
218.0〜318.0万円

フィアット チンクエチェント 1.2 8V ラウンジ
ボディサイズ(全長x全幅x全高)
3545×1625×1515mm
車両重量
1010kg
エンジンタイプ
直列4気筒SOHC
総排気量
1240cc
最高出力
69ps(51kw)/5500rpm
最大トルク
10.4kg-m(102N・m)/3000rpm
ミッション
5速シーケンシャルAT
10・15モード燃費
15.6km/l
サスペンション(前/後)
ストラット/トーションビーム
ブレーキ(前/後)
ディスク/ドラム
税込価格
225.0万円
ミニ ワン(6速AT)
ボディサイズ(全長x全幅x全高)
3700×1685×1430mm
車両重量
1170kg
エンジンタイプ
直列4気筒DOHC
総排気量
1396cc
最高出力
95ps(70kw)/6000rpm
最大トルク
14.3kg-m(140N・m)/4000rpm
ミッション
6速AT
10・15モード燃費
14.2km/l
サスペンション(前/後)
ストラット/マルチリンク
ブレーキ(前/後)
ディスク/ディスク
税込価格
231.0万円
フィアット チンクエチェント 1.2リッターエンジン

ベースは80年代に登場したエンジンだけに環境性能は厳しいところ。それでも15.6km/Lという燃費を達成しているのは驚きだ。

フィアット チンクエチェント 15インチホイール

15インチのタイヤ&ホイールを採用する。デザインも可愛らしいエクステリアにマッチしたレトロ風。初代のイメージをうまく取り入れている。

ミニ 1.6リッターエンジン

プジョーと共同開発の1.4リッターエンジン。プジョーは4速ATだがミニのATは6速となる。回転フィールも滑らかで実用性の高い特性を持つ。

ミニ 15インチホイール

ミニのホイールもレトロな雰囲気たっぷり。パワートレーンなども最新のものとなるだけに、現代的なハンドリング特性や乗り心地を実現している。

フィアット チンクエチェント インパネ

インパネのデザインも見事に初代モデルを思わせるもの。だがオートエアコンやMP3対応オーディオを採用するなど各種装備類は現代的だ。

フィアット チンクエチェント シフトレバー

パンダと共通の5速シーケンシャルミッションを採用。変速時のショックやタイムラグはだいぶ少なくなったが、違和感は残っている。

ミニ インパネ

大きなスピードメーターを中央に配置したインパネのデザインは、オリジナルのミニの雰囲気をうまく表現している。見た目だけでなく実用性も高い。

ミニ シフトレバー

ミニのミッションはAT(写真)とMTがあり、どちらも6速となる。ATでもマニュアルモードを装備するなど、スポーティな走りを楽しめる。

フィアット チンクエチェント フロントシート

丸いヘッドレストが可愛らしい。シートの形状や使用している素材の質感もどことなくレトロな雰囲気を感じさせてくれるのがとても印象的だ。

フィアット チンクエチェント リヤシート

丸みを帯びたデザインのおかげで、頭上の空間はミニマム。足元のスペースもそれほど広くはないが、何とか大人でも座ることはできる。

ミニ フロントシート

見た目には平板なシートだが、座ると体をしっかりと支えてくれるのはさすが。小物類の収納スペースなども用意され、高い実用性を確保している。

ミニ リヤシート

ミニの後席もチンクエチェントと同様、最低限のスペース。だが後席のスペース確保のためにデザインが破綻するよりはよほどいいだろう。

フィアット チンクエチェント ラゲッジ

デザイン優先でリヤゲートが傾斜していることもあり、ラゲッジスペースはお世辞にも広いとはいえない。だが実用上困るケースはあまりなさそう。

フィアット チンクエチェント ラゲッジ

リヤシートの収納は背もたれを倒すだけの単純なもの。だがフロアに段差ができてしまうので、使い勝手があまりよくないというのも事実だ。

ミニ ラゲッジ

4人乗車時のラゲッジスペースはチンクエチェントよりもやや広い。ただ開口部とフロアの高さが異なるので、重い荷物は積み込みにくそうだ。

ミニ ラゲッジ

チンクエチェント同様、ミニも背もたれを倒すだけの単純なアレンジ。多くの荷物を積むクルマではないがフロアの段差は使い勝手を低下させている。

フィアット チンクエチェント vs ミニ

フィアット チンクエチェントのエンジンは80年代に登場した古い設計のもの。それだけに燃費などの環境面では厳しいし、回転フィールなどもやや古くさい。またシーケンシャルATの変速も違和感があり、滑らかな走りはあまり期待できない。ミニはエンジンやミッションも最新のものを採用するだけに、走りは現代のクルマそのもの。デザインは別として走りに関しては圧倒的にミニが優勢だ。