「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)

「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)

究極のクリーン性能「燃料電池車」

 大気汚染、CO2、化石燃料資源の枯渇・・・。クルマが抱える厳しい環境問題を前に、ホンダが積極的に取り組むのが「燃料電池車」だ。水素と大気中の酸素を反応させ電気エネルギーを発生。排出するのは水だけという究極のクリーン性能を誇る。自然界の様々な物質に含まれ、電気分解で生成し貯蔵することが可能な(しかも、ヒトの手によって作り出せる!)「水素」エネルギーというのも、今の時代に非常に注目される点だろう。さて、その究極のクルマの動力源となる全く新しい燃料電池の技術を巡っては、世界の自動車メーカーがしのぎを削って取り組んでいる。そんな中でホンダは一歩先に進んだ。新開発・新発想の燃料電池車「FCXクラリティ」の販売を遂に開始するのだ。

Hondaの最新燃料電池車「ホンダ FCXクラリティ」 エクステリア
Hondaの最新燃料電池車「ホンダ FCXクラリティ」のエクステリア。最初からエンジンではなく燃料電池スタックやモーター搭載を前提にパッケージング・デザインを施した点が新しい。
Hondaの最新燃料電池車「ホンダ FCXクラリティ」 インパネ
外観同様先進イメージのあるインテリア。乗車定員は4名だ。FCスタックは前席中央部に縦置きされている。インパネ周りのデザインには現行型シビックのデザインとの共通性も感じられる。
Hondaの最新燃料電池車「ホンダ FCXクラリティ」 パッケージングの概念図
こちらがパッケージングの概念図。センタートンネルにFCスタック、フロントに同軸モーター・ギア、リアシート下にアシスト電源、後席後方に大容量の水素タンクが積まれている。

ホンダ車開発の重要拠点で生み出される燃料電池車

 ホンダの新型燃料電池車「FCXクラリティ」は、独創的な燃料電池「V Flow FCスタック」をコア技術にし、専用シャシー・専用パッケージのオリジナルスタイルを採る。見るからに「近未来のクルマ」といういでたちもFCXクラリティの大きな特長である。将来の量産化に向けたインフラの基礎造りも完成し、生産は既にスタート。この7月から北米でのリース販売を始める。続いて今秋には日本でも同様に開始し、日米合わせて年間数10台規模、3年間で200台程度を販売する計画だという。
 この先進的な「FCXクラリティ」の生産拠点があるHonda四輪新機種センター(栃木県高根沢町)で6月16日、北米仕様の記念すべき第1号車がラインオフを果たした。これに合わせ、報道陣に先進の生産ラインが公開された。世界の最先端をゆく燃料電池車の生産技術を早速レポートしよう。

世界の最先端技術は「とちぎ」で生まれる!

ホンダ FCXクラリティの生産拠点「Honda四輪新機種センター」 完成車検査の模様

 そもそも、世界の自動車メーカーの多くがガソリンエンジン車の市販モデルをベースに燃料電池車を試作・生産するのに対し、ホンダはゼロベースで燃料電池専用設計のクルマ「FCXクラリティ」を生み出した。ホンダが燃料電池車の未来にかける高い期待を感じさせるとともに、この違いは本格的な量産化に向けて非常に大きな差となってゆくはずだ。
 「FCXクラリティ」が生産されるのは、栃木県高根沢町にあるHonda四輪新機種センターだ。「ホンダ技術研究所 栃木研究所」や巨大なテストコース「栃木プルービングセンター」など、ホンダ車開発の重要拠点に隣接する。また、コア技術となる燃料電池(FC)スタック「V Flow FCスタック」も、近接するホンダエンジニアリング株式会社で生産される。共に間違いなく世界の最先端をゆく技術の拠点である。世界の自動車メーカーも目を輝かすような秘密の施設に、今回初めて報道陣への公開が許された。詳しくは下の画像と解説を見て欲しいが、共に将来の大幅な量産化をも視野に入れていることが見て取れる。
 クルマが実験室やテストコースで試せることは限られている。特に革新的な新技術を採用した場合、一般ユーザーの手に渡って初めて分かる事象も多いと聞く。FCXクラリティの市販化が、今後の燃料電池生産技術に向け果たす役割は非常に大きい。そしてそのフィードバックを受け止め、将来に繋げる生産現場を垣間見ることが出来た、実に貴重な経験となった。

ホンダ FCXクラリティ用「V Flow FCスタック」を生産するホンダエンジニアリング(株)[栃木県芳賀郡芳賀町]
ホンダ FCXクラリティ用「V Flow FCスタック」を生産するホンダエンジニアリング(株)[栃木県芳賀郡芳賀町]。生産拠点のHonda新機種センターとは近接している。少量生産ではなく将来の量産化への対応も十分に可能な設備を有するあたりにホンダの本気を感じる。
ホンダ FCXクラリティ用「V Flow FCスタック」生産工程 膜電極接合体(MEA)の電解質膜コーティング工程
FCセル内で電子を放出した水素イオンが通り抜ける電子膜電極接合体(MEA)。その電解質膜コーティング工程の様子。分かりやすく言うと「印刷」工程のようなものだが、究極の高精度を求められるため、厳重に管理された専用のクリーンルームでの製造となる。
ホンダ FCXクラリティ用「V Flow FCスタック」の生産工程 FCセル積層工程
FCセル積層工程。製造された薄いセル(発電装置)を数百枚の積層体にする工程だ。乾電池を直列に繋ぐのと同じようにセルを直列配置させる。セルの1枚でも不具合が出ると直列に繋げなくなり機能を果たさないため、全てに渡り非常に高い精度が要求される。
ホンダ FCXクラリティの生産拠点「Honda四輪新機種センター」 車体組立て工程[溶接]
ホンダ FCXクラリティの溶接工程(Honda四輪新機種センター)。少量生産に対応する溶接・塗装などの生産施設を有するためにこちらが生産の拠点に選ばれた。
ホンダ FCXクラリティの生産拠点「Honda四輪新機種センター」 水素タンクの搭載工程
171リッターの容量を持つ水素タンクの搭載工程。リアサスペンションユニットとのアッセンブリーで組み込まれる。なおタンク自体は社外サプライヤーからの供給である。
ホンダ FCXクラリティの生産拠点「Honda四輪新機種センター」[栃木県塩谷郡高根沢町]
FCXクラリティの生産拠点「Honda四輪新機種センター」。本来は生産化を控えた新型モデルの工場ライン量産化のための検証などを行っている施設。つまり極秘中の極秘エリアなのだ。

最初の個人顧客を栃木「Honda新機種センター」に招待

「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)

 6月16日、Honda新機種センターでは生産第1号車のラインオフ(生産完了)を果たした。これに合わせ、最初のオーナーとなる個人顧客とアメリカ・南カルフォルニアのFCXクラリティ販売指定ディーラー関係者などを工場へ招待し、記念のセレモニーが行われた。壇上でホンダ技研工業の福井 威夫 代表取締役社長は、FCXクラリティの開発チームや生産化に向けて奔走したスタッフ・関連企業らをねぎらい「従業員の皆さんの想いが詰まったFCXクラリティはお客様にもきっと満足いただける仕上がりになっていると確信している」と述べた。
 続いて最初のオーナーとなる映画プロデューサーのロン・イェクサさん、女優のローラ・ハリスさん、そして2005年に先代燃料電池車「FCX」で世界初の個人ユーザーとなったジョン・スパリーノさんらが登場。納車セレモニーが行われた。
 なお日本での発売はアメリカに続き今年の秋を予定する。アメリカではなんと月600ドル(!)という破格のリース料で販売されるというFCXクラリティ。果たして日本ではいくらでリース販売されるのか、そして個人所有ユーザーは現れるのか、興味は尽きないところだ。

「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)
映画プロデューサーで、長年の自動車愛好家でもある、サンタモニカ州在住のロン・イェクサさん(右)と福井 威夫 Honda取締役社長(左)。ロン氏は7月に最初のクルマを納車される予定だ。
「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)
ロスアンゼルス市在住の女優、ローラ・ハリスさん(右)。環境意識の高さはもちろんのこと、居住地近くに水素ステーションや指定ディーラーがあることもオーナーに選ばれた理由だという。
「ホンダ FCXクラリティ」ラインオフ式典の模様(栃木県:ホンダ四輪新機種センターにて)
カルフォルニア州を拠点に建設会社を共同経営するジョン・スパリーノさん(右)。既に2005年より先代「FCX」で世界初の個人ユーザーでもあり、コレが2台目のホンダ燃料電池車所有となる。

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Hondaの最新燃料電池車「ホンダ FCXクラリティ」 コア技術 "V Flow FCスタック"
FCXクラリティ用"V Flow FCスタック"は、2003年式の燃料電池スタックに比べ容量出力密度50%、重量出力密度67%の向上を果たし、飛躍的な軽量・コンパクト化を実現した。

( Photo:ホンダ技研工業/レポート:CORISM編集部 徳田 透 )

車名
ホンダ FCXクラリティ(日本仕様:Honda測定値)
ボディサイズ[mm](全長×全幅×全高)
4845x1845x1470mm
車両重量[kg]
1635kg
乗車定員[人]
4人
最高速度[km/h]
160km/h
10・15モード燃焼[km]
620km
■パワートレイン:モーター
交流同期電動機(永久磁石型)
・モーター最高出力[ps(kw)/rpm]
136ps(100kW)
・モーター最大トルク[kg-m(N・m)/rpm]
26.1kg-m(256N・m)
■パワートレイン:燃料電池スタック
PEMFC(固体高分子膜型)
・燃料電池スタック最高出力[kW]
100kW
■パワートレイン:リチウムイオンバッテリー
288V[電圧]
燃料:貯蔵方式
高圧水素タンク
燃料:タンク容量[リッター]
171リッター
燃料:最高充填圧力[MPa]
35MPa[約350気圧]
国内発売時期
2008年秋(リース販売予定)
写真
ホンダ技研工業
レポート
CORISM編集部 徳田 透