知ってるけど、乗ったことはないLPガス車
タクシーでおなじみ「LPガス車」。その名前は聞いたことがあっても、運転したことがあるという方は少ないはず。そんな中、タクあがりなどの変わった車が大好きな特異体質(?)を持つ、我らが達人「ダーワ教授」が、貴重な試乗会に参加してきた。これが、あなたの知らないLPガス車の世界だっ!
業者向け試乗会に特別参加!「で、どうなのよLPガス車!?」
昨年末、都内でLPG(LPガス)車の試乗会が行われた。対象は販売事業者と個人タクシー運転手などのLPG車ユーザー。試乗は王子自動車学校(東京)のコースを貸し切って実施された。今回その試乗会へ特別に参加させてもらうことが出来たので、早速レポートしたい。
試乗車は、タクシーなどの営業用としてメーカーから発売されている二大勢力「クラウン セダン」と「セドリック セダン」を筆頭に、市販のガソリン車ベースで改造されたLPG車、さらに、日本よりLPG技術が進んでいるというお隣り韓国の「現代 グレンジャー」まで様々なモデルが用意された。なおインプレッションは、教習所の敷地内での限られた走行条件を基に記している点をご了承頂きたい。
【その1】トヨタ クラウン セダン スーパーデラックスG(YXS10系:トヨタ自動車製)
トヨタ自動車から発売されているメーカー純正のLPG車。ベースのクラウン セダンは、タクシーやハイヤーではダントツのシェアを誇るモデルだ。
デビューは01年。ライバルの日産 セドリック セダンが、昭和生まれのY31型のまま長年作られているのに対し、こちらは随分と新しいモデルである。しかしあまり知られていないことだが、クラウンセダンのプラットホームのルーツは、なんと懐かしい80系(!)マークIIセダン。新しい車体にY31より古い昭和のシャシーとは、なかなか巧みな手法だ。
搭載されるエンジンは、耐久性の高い3Y型2.0リッターOHV(!!)エンジン。客待ち時のロスを低減すべくアイドリング回転自体を低めに抑えているほか、アイドリングストップ装置がオプションで用意されるなど、キメ細やかな配慮もトヨタならでは。さらに、マイルドハイブリッド仕様車の設定もあるのはサスガだ。なお2008年には、新しく1TR型2.0リッターDOHC VVT-i(!!!)エンジンへとイッキにバージョンアップする予定となっている。
《達人「ダーワ教授」のショートインプレッション》
小柄ながら四角いボディで十分に広い室内。古いエンジンだが遮音が効いていることもあり、うるささもほとんど感じられない。4気筒車らしい軽快な走りで、街乗りレベルなら不満も感じられないはず。唯一難点を言えば、低速域からの出足のトルクの細さが気になるところか。特筆すべき点はないものの、トータルバランスの高さはさすがトヨタ、と感じさせる。
【その2】日産 セドリック セダン クラシックSVプレミアム(QJY31系:日産自動車製)
そのルーツをたどれば、昭和62年デビューのY31系に端を発する超ロングセラーモデル「日産 セドリック セダン」。その間に幾度となく改良が加えられていて、その間に姉妹車「グロリア」の名は99年に、メーカー純正LPG車唯一のV6エンジン搭載車は昨年に、それぞれ廃止されている。現在はNA20P型2.0リッターSOHC4気筒エンジン(85ps)のみのラインナップだ。
最新モデルは、フードマスコットが省かれたり新エンブレムが採用されるなどエクステリアのデザインが小変更されているほか、高級仕様だったV6モデル用のインパネが、一部4気筒モデルにも採用された点が特筆される。また、ハイヤー需要などでリクエストが多かった新色ブラックパール(フェアレディZ純正色)も設定された。
なお試乗車の「クラシックSVプレミアム」グレードはカタログモデルではなく、販売会社「日産特販」の特別仕様車という位置付けになる。
《達人「ダーワ教授」のショートインプレッション》
重厚な見た目とは相反して、軽快なアイドリング音にびっくり。乗り心地や走りもとてもすがすがしい。V6搭載の高級仕様を知る者としては、4気筒のさっぱりした走りと豪華な内装とのギャップが不思議な気分だったりする。ブレーキフィールもしっかりしており、個人的にはクラウンより好印象だ。
【その3】トヨタ クラウン ロイヤルサルーン ELPI(GRS180改:田中モータース製)
こちらは、市販車を改造したモデル。田中モータースにより2.5リッターの180系「トヨタ クラウン ロイヤル」をベースにLPG仕様に改造したモデルが出展された。
特長は、ガソリンとLPガスのどちらでも切り替えして使用可能なバイフューエル仕様だという点。LPガス以外にも、CNG(天然ガス)とガソリンのバイフューエルにも転用可能という汎用性の高いシステムなのだ。
「ELPI」は"Electronic LP Gas Injection System"の略。車種により費用などは異なるが、およそ50万円前後で改造出来るという。
(※改造できない車種もあり)
《達人「ダーワ教授」のショートインプレッション》
同じエンジンのガソリン車と比較した場合、LPG車は燃料の性質上どうしても性能が劣ってしまう。しかしこのクラウンの場合は、搭載される2.5リッター4GR-FSE型エンジンがもともと力強いので、LPG車でもパワーダウンを感じることはほとんどなく、音や振動の違いなどは全く体感出来ない。
ちなみにバイフューエルモデルなので、走行中に燃料を切り替え出来る。必要に応じてガソリン走行に切り替え可能となれば、長距離ドライブなどでLPガススタンドが少ないエリアを走る場合でも安心だ。
《こちらは比較用》トヨタ クラウン ロイヤルサルーン(GRS180系)ガソリン車
【その4】日産 ティアナ 230JM FAST(J31改:イタリア・ロバート社製改造キット使用)
LPG内燃機関工業会から出展されていた「日産 ティアナ」をベースにしたLPG車。70年の歴史を持つというイタリア・ロバート社製改造キット「FAST」を使っている。このキットは、始動時は必ずガソリンを使用し、水温が60度に達した時自動的にLPガスに燃料が切り替わるバイフューエル方式を採用する。
実はLPガス車は低温時の始動性が不得手、という特性があるが、この方法を採れば寒い北国などでも有効な手立てとなる。改造費はおよそ49.5万円。燃費にも優れ燃料代も安いLPG車ゆえ、長距離を走るタクシーや営業車なら、2年弱で回収出来る額だとLPG内燃機関工業会では説明する。
《達人「ダーワ教授」のショートインプレッション》
バイフューエルタイプのティアナ。完成度の高さが光る。何より全く違和感なくガソリンからLPGへの切り替わるのがスゴイのだ。パワーの差も狭いテストコース内では実感出来なかった。唯一の難点はLPガスタンクの小ささ(53.5L)だが、バイフューエルゆえ問題は少ないだろう。
(左)日産 ティアナ 230JM ガソリン車 (右)日産 ティアナ 230JM FAST LPG車
《こちらは比較用》日産 ティアナ 230JM ガソリン車(J31系)
【その5】ヒュンダイ グレンジャーLPI(TG27L系:ヒュンダイモータース製)
あまり知られていないことだが、韓国はLPG先進国である。全自動車保有台数全体の約20%(約200万台)がLPG車だというからスゴイ。そんな韓国から輸入されているのが「ヒュンダイ グレンジャーLPI」である。
グレンジャーは、北米では「カムリ」や「アコード」の対抗車として売られるLクラスFFセダンだ。余裕ある室内空間に加え本革シートなどの豪華装備が手頃な値段で手に入るとあって、首都圏の個人タクシーや法人タクシーなどで台数が増えつつある。営業車でも3年6万kmという充実保証をつけるあたりにメーカーの自信が伺える。
LPI(Liquefied Petroleum Injectino)とは、先進型燃料供給システムの名称。ガソリン車がV6 3.3リッターなのに対し、LPG専用エンジンはV6 2.7リッターDOHCである。最高出力165ps(121kW)/5400rpm、最大トルク25.0kg-m(245N・m)/4000rpmと、4気筒LPGエンジンを搭載するクラウン セダンやセドリックに比べ動力性能でも圧倒的な優位性を誇る。
なお同車は、ヒュンダイモータージャパンと伊藤忠エネクスクリーンパワーエナジーでの取り扱いとなる。
《達人「ダーワ教授」のショートインプレッション》
LPガス車でも2.7リッターと排気量に余裕があり、低中速で乗り比べる限りその差はごくわずかと感じた。エンジンの完成度もかなり高く、LPガス車と言われなければ絶対に気付かないはずだ。
ただし「グレンジャー」の仕上がり自体が、今回テストした「トヨタ クラウン」などと比べてしまうとまだまだ厳しいのも事実。パワフルなのはいいが、発進時に強いトルクステアが生じるなど、一昔前のFF車を想わせるレベルだったのだから。
とはいえ、「ティアナ」クラスの価格で「クラウン」クラスの広さやパワー、さらに本革シートなどの豪華装備など等が得られるのは、かなりのアドバンテージとなる。さらに営業車としては異例の長期保証が付くなど、多数の車両をまとめて用意しなければならないタクシー会社にとってなにより魅力的に映るはずだ。
(左)ヒュンダイ グレンジャー ガソリン車 (右)ヒュンダイ グレンジャー Q270 LPG車
《こちらは比較用》ヒュンダイ グレンジャー ガソリン車
キミは知っているか、LPガスが優れていることを!
タクシーや配送車など、走行距離が多い事業用の車などに多く採用されるLPガス車。レギュラーガソリンが1リッター150円前後(2007年12月現在)なのに対して、LPガスは1リッター80円代という価格を維持している。少し前までは60円台という頃もあったくらいである。ガソリンが急騰し続ける中で、その高い経済性は非常に魅力的だ。
また、排気ガスがクリーンなのもLPガス車の特長。PMやNOxはディーゼルに比べ圧倒的に少なく、C02の排出量もガソリン車に比べ12%も低減出来るという。LPガス自動車普及促進協議会では、クリーンエネルギー自動車のLPガス車を、現状29万台から2010年には55万台まで増やしたいと意気込む。
しかし事業用の車(もっと言えば「タクシー用」)というイメージが強く、個人所有も可能なことはまるで認知されていないのが現状だ。やはり敷居が高い印象もあるだろう。
しかし今回ご紹介したLPガス改造キットは、タクシーキャブのみならず、多くのガソリンエンジン車に対応している。その改造キットの多くを生産する欧州では、実に600万台ものLPガス車が普及しており、一般ユーザーにとっても身近な存在となっている。
気になるその改造費用は、ある業者で50万円前後。その業者が算出していた数値では、月180km走行するタクシーならガソリンとの燃料代の差額や燃費などを換算し、およそ2年弱で回収出来る額だと紹介していた。
ところで・・・LPガススタンドってどこにある?
ガソリンスタンドに比べ、LPガスを充填するスタンドの数は圧倒的に少ない。これは事実だ。とはいえその数は全国におよそ1900箇所。タクシーが走り回る都市部なら大抵の街に存在する。ちなみに高速道路のサービスエリアでも、東名道なら下り足柄SAに唯一のLPスタンドがある。長距離のドライブをするなら、都市部で給油してから出たほうが安心なようだ。
気になる方は、全国エルピーガススタンド協会のホームページをチェックしてみよう。
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職業:生きるクルマデータベース、世界の車種・グレードすべての知識を持つ恐ろしい奴。
中古車情報誌から、自動車販売店・解体屋・ミニカー屋など現場の世界と転々と。基本的に車好きが抜けないようで中古車ブローカー(本人認識無し)と貿易輸出業などを掛け持ち、現在に至る。車の趣味嗜好も偏っており、車と共に本人的にも社会的不適合車(者)です。趣味と...
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