ABSオプション化は安全な装備の充実に逆行する愚行!?
原材料や賞味期限の改ざんなどなど、最近の世の中はなにを信じればいいのかわからなくなっている。もはや、製造メーカーの良心というのもココまで地に落ちたのか・・・、という報道ばかりだ。知らないやつがバカをみる時代に突入しているのかもしれない。
で、自動車はどうなの? と、考えると法規こそ犯していないが「知らないやつが悪い」的な思想をたまにみることがある。そんな事例が「軽自動車のABSオプション化」だ。
ABSとはアンチロック・ブレーキ・システムの略で、簡単に言うとタイヤのロックを防いでくれるとてもありがたいシステムだ。教習所などでも習った人も多いかと思うが、タイヤがロックすると制動距離は大きくなる。さらに、タイヤがロックしてしまうとステアリング操作をしても、ステアリングを切った方向にクルマが進んでいかないのだ。それを防いでくれるのがABSというワケ。今までだったら衝突してしまうようなシチュエーションでも、制動距離を短くした上にさらにステアリング操作が効くので障害物を回避することができる。今ではクルマの安全装備の基幹を支えるシステムでもある。そんなこともあって、最近のクルマにはほぼ100%標準装備化されていた。
口では安全をうたっておきながら、実は・・・。
し・か・し! 最近の軽自動車の一部のグレードに限り、安全装備の基幹装備であるABSをオプション化する動きが出ているのだ。主に一番安価なグレードに設定されている。その理由をメーカー側に聞くと「軽自動車は価格重視のお客様が多いので、見た目の価格の安さを訴求するにはABSを外すしかない、という営業サイドからの要請」と答える。価格にするとわずか約2〜3万円前後のものだ。あるひとつのメーカーがABSのオプション化を始めると、横並び大好き&付和雷同なメーカーが後に続き気がつくとほとんどのメーカーがABSオプション車を設定することになったのだ。
さらに、ABSオプション車をほぼすべての車種にラインアップするメーカーの国内営業担当に聞くとABSを外して売り上げがどれだけ伸びたのかという客観的な資料は存在しないという。ABSという安全装備を積極的にオプション化した結果がどうだったのか? もし、売り上げに効果がないとしたら、企業は儲からずユーザーはリスクを負ったままだ。これでは、メーカーも何のためやっているのか分からないのではないだろうか?
また、ここ数年の自動車メーカーは、どこも声を揃えて「これからは環境と安全性能が大切」といっている。ところが、ABSのオプション化という事実は、安全性能が大切というメーカーそのものの姿勢と逆行する状態なのだ。口先だけでは安全云々と語っておきながら、少しでも売れるなら安全性能を落としてでも販売したいという現実がそこに垣間見ることができる。
客は安けりゃいい、安全装備を詳しく知らない人が悪い的な考え方が当たり前なのか?
軽自動車の多くは女性ユーザーであり、クルマのメカニカルな部分に疎い。また、軽自動車の性質上、生活の足であり毎日使うものでもある。それに、軽自動車は小さい。衝突すれば被害も大きくなる可能性が高い。そんな状況下なのに、メカに疎くABSの効果をあまり理解できない人なら「安いほうがよい」になるのを本来ならメーカーは標準装備化して一定の安全装備の水準を維持しなくてはならないと思う。オプション化による「安全装備を知らないヤツが悪い」というは少々乱暴な考えだ。
クルマは命を乗せているのだ。こんな安全重視時代に逆行するような流れは、ユーザーにとってもメーカーにとってもいいことはないだろう。安全装備をケチっているようなメーカーをユーザーはこれからどんな眼で見るか考えたことはあるだろうか?
軽自動車は生活に密着しているし、小さくて弱い。だからこそ基本的な安全性が重要だ。
それほど言っても「価格重視のユーザーもいらっしゃいますから」とメーカー側はお茶を濁す。安ければ安いほうが良いだろうが、新車を買うというのに、安全装備の基幹装備といえるABS装備分である約2〜3万円の金額アップさえも理解できないユーザー側にも認知不足の問題があるかもしれない。だが、すべてのメーカーが標準装備にしてしまえば低いレベルでの価格争いにならないのではないだろうか。また、メーカーの安全思想の高ささえもアピールできると思うのだ。
クルマはとても複雑で難しい。今時のクルマの安全装備などは、それなりの知識のある人でなくては理解できにくいレベルにまで達している。生活に密着した軽自動車だからこそ「知らないやつが悪い」的な考えは捨てなくてはならない。すべての人が一定以上の安全性能は共有する必要があると思う。
だから、もし安さ重視でABSがオプションとなる軽自動車を買おうとしている人がいたなら「そんな軽自動車は買ってはいけない」と伝えたい。