「フォルクスワーゲン・ニュービートルLZ」

キープコンセプトながら、精悍さをプラス

 なぜ、いまどき「ニュービートル」の試乗?と思われた方も多いはず。きっかけは、単純な事だった。
 私が、毎週、車の情報をお伝えしている地方のFM局で、リスナーの女性を対象に「自らオーナーになってみたい輸入車は?」という質問を投げ掛けたところ、ミニを凌いで、堂々一位に輝いたがこの「ニュービートル」であった。ほかにもファッション誌などで行った同様のアンケートでも、「ニュービートル」が常に上位にランキングされていることから、改めて2005年にマイナーチェンジを行った最新モデルに試乗してみた。
 余談だが、1999年に国内デビューを果たした「ニュービートル」は、私の母親も元オーナーだ。

 現在、セダンタイプは1.6Lエンジン搭載の「ニュービートルEZ」そして、2.0Lエンジン搭載の「ニュービートル」、スライディングルーフに本革シートを装備した豪華版「ニュービートルLZ」の3タイプ。今回試乗を行ったのは、フラッグシップモデルの「LZ」である。

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」フロントマスク
バンパーは3分割のエアーインテークが採用され、ウインカーもワイドタイプに変更。ヘッドライトも楕円形のプロジェクター式となり精悍な顔つきになった。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」サイドライン
サイドビューは「ニュービートル」そのものだが、フェンダーは、曲線がモチーフだったものから、エッジラインを強調させたシャープな印象に変更された。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」リア
テールランプは、デザインを一新。レッドの円形に小さなホワイトの円形を組み合わせたもの。流行のLEDは、未採用だが、視認性は向上されている。

ATはやや時代遅れ。意外にも、コーナーが待ち遠しい素直なハンドリング

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」ドライヴィング

 2005年にマイナーチェンジが実施された「ニュービートル」。我が家にも、1999年モデルが3年ほどガレージに納まっていたため、元オーナーとしての視点からも、チェックしてみた。
 エンジンは基本的に手が加えられていない。116ps/17.5kg-mという、平凡なスペックもそのままだ。しかし、ドライブレンジにセレクトし、信号で停車しているような場面での振動は、明らかに軽減されている。
 出足は、スペック以上にゆとりがあり、十分な低速トルクのおかげで、滑らかに速度を持ち上げてくれる。時速100キロあたりまでの加速なら、まったくもって不満はない。
 この「ニュービートル」に乗るといつも感じることがある。それは、なぜか気持ちが、とても穏やかになるのだ。高速で、後ろから煽られようが、幹線道路で軽自動車に抜かれようが、そんなことは、お構いなし。マイペースを保ったまま、自然と“ホンワカドライブ”になっているから不思議だ。

 オートマチックは、やや時代遅れの電子制御4AT。街中を、転がしている限り、シフトショックは皆無で、快適だが、高速では、時速100キロ巡航時で2950回転も回る。しかも、この速度域では、キックダウンが起こらず、追い越しでは、ストロークの短い、T型レバーを3速に落とす必要がある。これが、2速との間隔が狭く、誤って2速まで落としてしまうこともしばしばあった。「ニュービートルカブリオレ」が搭載している6速ティプトロニックの採用が待ち遠しいところだ。

 最も、気に入ったのは、意外にもステアリングフィールだった。マイナーチェンジ前のモデルでは、やや腰高感のあるコーナリングと、ステアリングの中立付近でのレスポンスのダルさが気になったが、最新モデルでは、改良。上りのワインディングでは、さすがにパワー不足を感じる場面もあるが、下りでは、ファニーなルックスからは想像もつかないほど安定した挙動で、コーナーをクリアし、クイックになったステアリングレシオと相まり、意外なほど、速いペースで走り抜けることができた。

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」2.0Lエンジン
実用域を重視したフラットトルクのエンジンは、基本的にゴルフ�と同様。街中でもリッター10キロを割らないのは、嬉しい。ヘッドカバーのデザインは変更。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」16インチアルミホイール
ベースグレート「EZ」を除いて、新デザインの16インチアルミホイールが純正。ブレーキもジワーッと踏力に比例して効くものでコントロール性に優れる。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」4速フロアAT
電子制御式4ATはシフトショックも少ない。エンジンとの相性もよいが、積極的に走りたいときには、カブリオレが搭載している6ATを早く採用してもらいたい。

見切りは良くないが、可愛らしいインテリア

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」インテリア

 「ニュービートル」のインテリアは、エクステリア同様、とてもファニーだ。しかし、ダッシュボードの奥行きが深く、シートに腰を下ろした状態では、最前部に手が届かないほど長い。また、四本のタイヤを包むフェンダーは、大きく張り出しており、車両間隔を把握するには、やや慣れを要するといえる。事実、フォルクスワーゲンのラインナップ中で、軽度の自損接触が最も多いのは、「ニュービートル」であると、専門メカニックから聞いたことがある。購入前に十分試乗しておくことを、オススメしたい。
 
 各種、スイッチ類のロジックは非常にシンプルで扱いやすい。ナイトイルミネーションは、例によって、他のフォルクスワーゲン同様、コバルトブルー&レッドで照らされ、ナイトドライブを演出する雰囲気は満点だ。
 マイナーチェンジでは、エアコンルーバーのメッキ処理、計器の刷新、そして、MP3対応のオーディオが装備された。
 

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」シート
「ニュービートルEZ」には、両席に3段階温度調整式のシートヒーターを内蔵。本革シートは純正となる。仕立て、質感ともに申し分ない。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」MP3対応オーディオ
車内と調和のとれた専用デザインのオーディオは6スピーカー。MP3フォーマットに対応することで、CD一枚で百曲以上の音楽を楽しめる。
「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」メーターイルミネーション
実はメーターはすべて刷新。スケールは、220キロから240キロ表示になり、目盛りも詳細なものに。メッキリングを配し高級感アップ。

 クルマとしての利便性を考えた場合、「ゴルフ」シリーズを選択したほうが、賢明かもしれないが、「ニュービートル」がある生活は、心にゆとりと潤いが生まれてくる。ガレージに収まる姿、ショッピングセンターでオーナーを待つ姿、すべてが微笑ましく、愛らしい。そこには、自動車という“キカイ”とは違った物が宿り、まるで、家族が一人増えたような感覚すら覚える。
 昨今“冷たい”クルマが多い中、これほどまで乗り手を癒してくれた「ニュービートル」。メンタルケアをしてくれるクルマなど、おそらくこのクルマだけなのではないだろうか・・・。

 

「フォルクス・ワーゲンニュービートルLZ」イメージ

written by 外川 信太郎