この記事の目次 CONTENTS
記事トップ
クーペを彷彿とさせる造形美
美しいエクステリア同様、インテリアも上質。しかし、細部には…
全てが特別。ハイパフォーマンスを極めた美しきセダン
本性をみせる「AMG」の正体

ライター紹介

自動車ライター&カーグッズライター

外川 信太郎 氏

大学卒業後、ラジオ局の放送作家(自動車番組)を経て、2000年にフリーの自動車ライターに。輸入車専門誌、カーグッズ誌、ウェブマガジン、自動車用品メーカーのカタログ執筆。またカーワックス、自動車メーターの知識は、業界でも特筆。現在でも、山梨県甲府市の某FM局でクルマ番組のパーソナリティも勤める。愛車は正規輸入車では日本上陸一号車のピンクの「ルノー・トゥインゴ」と「オペル・ベクトラ」。他にも50万円以下で購入できる、格安輸入車をこれまでに十数台購入。湘南藤沢市生まれ、少年時代は、英国に滞在。

クーペを彷彿とさせる造形美

私は、これまでドイツ車専門誌の執筆経験から、メルセデスに関しては歴代モデルから最新モデルまで、数多く接してきた。

最も、メルセデスがメルセデスらしかったW124型(2世代前のEクラス)やW126型(3世代前のSクラス)などでは、「質実剛健」と絶賛される。
独自のクルマ造りを行っていたが、90年代に入ってからは「らしさ」が希薄となり、コストダウンが明白と陰口を叩かれたのも事実だ。
反面、これまでになかった「軽快感」という点では評価された。
一例ではあるが、先代EクラスであるW210型が採用した丸型4灯式ヘッドライトが、その躍動的なデザインで世界中にセンセーショナルを巻き起こしたというのは記憶に新しい。

変わりつつあるメルセデスラインナップであったが、「軽快感」と表現する人は存在しても、「美しい」と表現するには至らなかった。
 
だがこのCLSクラスは、一言「美しい」。
優美な曲線が弧を描き、ルーフラインからCピラーにかけて、まるでクーペのような流麗なラインが特徴的。
ボディサイドに刻まれたシャープなエッジラインは精悍な印象を与え、上質ながらスポーティでもある。

美しいセダンとして呼び声の高い「ジャガーXJ」シリーズが永年、独自の市場を固持してきたが、このCLS(W219型)シリーズの登場によって、ジャガーを脅かす存在になったことは事実だろう。

優美なエクステリアを眺めている限り、このクルマが0-400mを12秒前半で駆け抜けるスーパーマシンであるという事に、まだ気が付かない人は多いはずだ。

美しいエクステリア同様、インテリアも上質。しかし、細部には…

取材車のインテリアは、desino(デジーノ)仕様。贅沢この上ない素材をふんだんに採用した特別なモデルだ。
シングル・ポーセントのフルレザーシートに、妖艶な輝きを放つピアノ調ウッドパネルが組み合わされた上質な空間からは、いまだにこのクルマの本当の“正体”がバレないだろう…。

しかし、この上質な空間にやや“不釣合い”な部位を数点発見した。
まずは、ステアリングの両サイドに設けられたアルミ製のパドルシフト。
通常のモデルではスイッチ状の形状で控えめに装備されているが、この「CLS63」にはイタリアの“マセラティ張り”の大型なものが配されている。
ちなみに、左がシフトダウン、右がシフトアップである。

さらに、速度計のスケールは320km/hまで刻まれ、センターのディスプレイには「レースタイマー」を装備。タコメーターのレブリミットは、6.3Lという大排気量エンジンの常識を超えた7200rpmからである。 

オールレザーシートにピアノ調ウッドを配したインテリアは、贅沢この上ないもの。
このクルマの性能を物語る物々しさは、皆無といえる。7.1チャンネルサラウンドオーディオを装備。

VDO製メーターの基本デザインはEクラス(W211型)と同様だが、書体やスケールを変更。
中央のディスプレイには、サーキット走行時のラップタイプや、平均、最高速度などを表示。

7速ATを自在に操るAMGパドルシフト。俊敏な操作が出来るように大型化されている。
シフトレバーに設けられたMモードを選択すれば、より素早いシフトチェンジが可能である。

全てが特別。ハイパフォーマンスを極めた美しきセダン

エクステリアの優美さは“鑑賞領域”とも言える「CLS63」だが、イグニションを回した瞬間、その“正体”が明らかになった。

デュアルツインのAMGマフラーからは、気密性の良いキャビンにも関わらず腹に響くような重低音が響き、シフトを早くリンケージするようにドライバーに訴えかけてくる。
とりあえず機械任せのDレンジにシフトし、試乗会場を後にした。重くストロークの深いアクセルは、開度され気をつければ“普通”に走ることも可能で、少し賑やかなV8サウンドを除けば、いたって快適である。

試乗時間は限られているため、高速道路中心のコースを選択した。
合流でも、Dレンジのままアクセル開度2割ほどで加速。
とくに強烈な加速感が襲ってくるわけでもなく、少々、拍子抜けをした。

「AMG の手によって独自開発された6.3L,V8DOHCユニットは、最大出力512ps、最大トルクは、64.2kg/m・・・」助手席に乗るアシスタントにあらためて怒涛のパワースペックを読み上げてもらったが、それを感じさせない快適さなのだ。

本性をみせる「AMG」の正体

前方を走る一般車達が、危険なものでも避けるかのように次から次へと道を譲り、いつの間にか前方の視界が開けた。
安全を確認した上、ヒタッと冷たい感触のアルミ製パドルシフトに手を掛け、アクセルを深く踏み込んだ瞬間、頭蓋骨がヘッドレストに押さえ付けられ、一瞬頭の中が真っ白になった…。

これまで燃費重視で制御を行っていた2個搭載のスロットルバルブが、瞬時に吸気管長を切り替え、本性を見せたのだ。

「バババッ…」という大迫力のビートがキャビンを包む。この音、以前どこかで聴いたことがあった。
そうだ、一度だけ乗ったことがあるスポーツカーの頂点に君臨する「メルセデス・ベンツSLRマクラーレン」のそれに近い!

320km/hまで刻まれたメーターの指針は、目で追えないほどの勢いで上昇をはじめ、一瞬のうちに言葉には出せない速度に到達。
6.3L、V8エンジンは、7000rpmを飛び越す勢いで吹け上った。このエンジン、「SLRマクラーレン」同様、レーシングユニットのような切れ味を持っている。
さすが、AMG初の独自設計ユニットである。

料金所が迫りブレーキを踏みつけると、まるで空気の壁にでもぶち当たったかのように速度を一瞬にして殺す。
フロント6ポッド、リア4ポッドのコンポジットキャリパー&ドリルドディクスは、パワー以上の能力を有している。

短時間の試乗だったが、アクセル開度によって普通に走ることもスーパースポーツ並みの性能を発揮することも可能な「CLS63」。
このクルマのオーナーになれる幸せな人は、まず、スピードに対する理性をしっかり持つことが必要だろう…。