スペース・カウボーイの逆襲
ジャミロクワイ
ソニーミュージックエンタテインメント (1994/11/03)
Heavy Rhyme Experience, Vol. 1
The Brand New Heavies
Rhino (2001/03/20)

いまじゃ当たり前だけど、クルマでCDが珍しかった時代もあったんです。

前回に引き続き、音声再生メディアの変遷と車上での音楽ライフの関係を振り返りたいと思います。今回は、90年代以降。

周知のとおり90年代以降のカーオーディオは、CDがメインに。購入した音源を他メディアにダビングすることなく、そのまま車中でプレイできるという利点は若者に大いにウケ、当時、チェンジャー機能搭載型CDプレイヤーが飛ぶように売れていたと記憶しています。音楽が好きか否かは置いといてクルマ乗りにとって、これらのプレイヤーがある種のステータス・シンボルでもあったような気がします。
で、当時の音楽シーンといえば、ビーイング系の全盛期。B’zを筆頭に、ZARD、WANDS、T-BOLAN、FIELD OF VIEW、DEEN……などが日本中を席巻。クルマ・カルチャーを愛する若者たちはこぞって、胸にしみる歌謡ロック・チューンを爆音で鳴らしながら、夜の峠道を攻めまくったものです。

一方、洋楽では、90年代のドライブ・ミュージック・シーンはアシッド・ジャズが花盛り。ジャミロクワイ『スペース・カウボーイの逆襲』やブラン・ニュー・へヴィーズ『ヘヴィ・ライム・エクスペリエンス』・・・などが日本でもビッグヒットを記録。彼らの底抜けにグルーヴィンでメロウなキラー・ナンバーがドライブ音楽のアンセムとして、日本中で流れまくってました。

あと、コムロ系やユーロビートも忘れることはできませんね。思い出すだけで、グッときます。フックの効いたメロディと重厚なダンスビートが醸す“刹那感”は、異性とのワン・ナイト・ドライブにぴったり。言うまでもなく、作り手もドライブ仕様という側面を大いに意識していたことでしょう。実際、90年代半ばのCDセールス全盛期は、ドライブ・ミュージック市場に支えられていたといっても過言ではありません。

私もお気に入りのCD数枚を常時チェンジャーに搭載。聴きたいアルバムをセレクトできるその利便性にいたく感動したものです。反面、車内がCDで氾濫し、音源の整理整頓という、クルマ乗りにとって新たなミッションが追加されたりました…とほほ。一方、かつて隆盛を誇ったカセットテープといえば、CDと同音質のMDの普及に伴い、カーオーディオ界においても徐々に衰退の一途を辿っていきました。

iPODじゃ得られないカタルシスがあったんです。

以来その状況は続いていましたが、2001年に発売された、iPODの爆発的ヒットの影響により、様変わりを見せ始めています。デジタル・オーディオ・プレイヤー用接続ツールやMP3/WMAといった圧縮データ対応のカーオーディオが登場。かつてはチェンジャーでCD数枚分がやっとだったのが、今ではアルバム1000枚、楽曲にして1万曲以上を自由にワンタッチ(古!)で聴くことができるのです。

膨大なライブラリーの中から、気分に応じてお気に入りのアルバムや楽曲をいとも簡単にセレクトできてしまう革新的な便利さ。私自身も、カーオーディオ界のIT革命にしびれまくりでした。さらに、CDやMD、テープの管理からようやく解放され、感激もひとしお。周囲の知人にも、iPodの車内使用を勧めまくってました。

ただし、利便性の向上に反比例して、かつて車中で得られたような音楽的カタルシスの頻度がなぜか減ってたりしてます。簡単すぎるからなのかなぁ? カセットのダビングやCDの入れ替えなど、数々の苦労やめんどくさい行為を経てこそ、感動がひとしお——ということでしょうか。単なるあまのじゃく? 最近は、昔みたくMDに好きなアルバム/楽曲をしこしこダビングして楽しんでいます。実際、iPodで聴くより、胸にグッとくる瞬間は多いです。皆さんはどうなんでしょうか?