FCXクラリティに搭載される電気モーターの出力は100kW/256N・mのパワー&トルクだ。このモーターによって前輪を駆動して走るFF車である。
パワーだけを見るならガソリンの1.8Lエンジン並みの実力だし、トルクも2.5Lエンジン並みの実力だ。ボディは徹底して軽量化を図ったとはいえ1635kgもあるから、乗る前には走りは平均レベルかなと思った。
ところが実際に走らせてみると、これが相当に良く走る。限られた条件下での試乗だったので、そうそういろいろな走りを試せたわけではないが、まず発進加速が鋭い。ガソリンエンジンと違って電気モーターは瞬時にトルクが立ち上がるので、文字通り一気に加速していく感じがある。トラクションコントロールによる制御も入るので、むやみに早いだけではないが、相当にパワフルな実力を持つクルマである。
このときにメーターを見ると、回転計が一気に上昇していくと同時に、メーターの中央に配置されたH2ボールメーターが水素の消費量を示して走りのECO度を教えてくれる。このボールを小さくて青い状態にして走れば、水素の消費量が少なくてすむわけだが、一気の加速をしているとH2ボールの色が黄色から赤みを帯びる同時に、ボールのサイズも大きくなって注意を促す。
メーターはほかにブレーキング時の回生状態を表示したり、バッテリーの容量計や水素燃料計などがあって、見るからに新しいクルマという印象を受ける。
前後ともダブルウィッシュボーン式のサスペンションはロングホイールベース、ワイドトレッドも貢献して乗り心地に優れている。全体としてはしっかりした感じの乗り味で、姿勢変化の少ないフラット感のある走りを味わわせてくれる。燃料電池車用に専用設計されたブレーキも違和感の少ないもので、回生ブレーキの制御もごく自然なフィールである。
やや気になったのは室内騒音で、エンジン音がない分だけロードノイズが聞こえやすい感じだし、モーター音なども入ってくる。停車しているFCXクラリティに乗り込んだ瞬間は外部と遮断された静粛性を感じるが、走り出しと走行音が大きくなる。このあたりはもう少し抑えて欲しいところだ。
日本でもこの秋からリースを始めるというが、リース料などはまだ決まっていないとのこと。生産台数がごく限られたものになるほか、水素ステーションのインフラの問題もあるので、どこでも誰でもリースを受けられるということではなさそう。アメリカでは600ドルとされるリース料も日本では数十万円になりそうで、役所やエネルギー関係の企業でないとリースを受けることができない感じなのは残念なところ。早く現実的な価格にまでコストダウンを進め、少しでも普及が進むように頑張って欲しい。