FOR YOU
山下達郎
BMGファンハウス (1999/05/21)
SURF&SNOW
松任谷由実
東芝EMI (1999/02/24)

さて、今回は音声再生メディアの変遷と車上での音楽ライフの関係について、ざっと振り返ってみたいと思います。というのも先日、iPodをクルマで聴いていたとき、「たった数年前に比べ、信じられないほど便利になったなぁ」と時代の変化の速さにしみじみしてしまいまして…。「そんなこと読まなくても知っとるわ!」というお方も見えるかと思われますが…どうかお付き合いくださいませ。というわけで、まずは70、80年代から振り返ってみます。

まず70年代初め、FM放送の普及を足がかりに、クルマと音楽の距離はぐっと縮まりました。そして70年代半ば、カセット・テープという当時としてはまったくもって画期的な再生メディアの登場により、ドライブにおける音楽事情は飛躍的な進化を遂げました。ある者はFM番組のエアチェックにより、お気に入りの番組・楽曲を録音し、ある者はアナログ・レコードをダビング。愛車のデッキで、それらカセット音源をBGMとして楽しむ——というカルチャーが定着しつつありました。そして80年代は、カセット・テープとFM放送の全盛期といえるでしょう。当時は大手オーディオ・メーカーがこぞってカセット・テープのシェア獲得にしのぎを削り、「FM FAN」「FMステーション」といったエアチェック用のFM専門音楽誌が売れに売れまくってました。今や影も形もありませんが、あるFM雑誌は最高で100万部も売れていたとか。
 
また、当時流行した音楽も、そんな世相を反映してか、ドライブ・ミュージックとしての役割を大いに意識した作りになっていたかと思います。例えば、ユーミンの『SURF&SNOW』、山下達郎『FOR YOU』とか。もちろん洋楽AORも。その頃の若者の趣味嗜好性や価値観をかっちり汲み取った、それらの楽曲群は、気の置けない仲間やステディと、冬はスキー、夏は海へ、道中の気分を大いに盛り上げてくれたことでしょう。あと、いわゆる「マイ・ベスト」も忘れてはなりませんね。皆、好きなナンバーをしこたま集めたカセットをクルマで楽しんだものです。

このようにFM放送とカセット・テープの台頭により、「クルマで音楽を楽しむ」というカルチャーが本格的に花開いたのがこの当時だったかと。すなわち、くるま自体“快適な移動手段”という位置付けから、この時期を境に“いかに楽しくドライブできるか”という付加価値的要素が重要視されるようになったのではないでしょうか。
次回は90年代を回想してみます。