ヒョンデ インスター(B1系)試乗記!日本マーケットにマッチするコンパクトBEV

ヒョンデ インスター(B1系)試乗記!日本マーケットにマッチするコンパクトBEV

ヒョンデは韓国の自動車メーカーであり、トヨタやフォルクスワーゲンに続く世界第3位の規模を誇る。

同社は2001年に日本マーケットへ参入したものの、販売不振により2010年に撤退した経緯がある。その後、2022年に再び日本マーケットへ参入。再参入時には、BEV(バッテリー電気自動車)のアイオニック5(IONIQ 5)と、FCEV(燃料電池車)のネッソ(NEXO)の2車種を投入した。その後、BEVのコナ(KONA)を追加し、2025年1月にはBEV第3弾となるコンパクトSUV「インスター(INSTER)」を発売した。

今回試乗したインスター(B1系)は、日本市場での本命モデルともいえる存在である。全長3,830mmと軽自動車よりひと回り大きいボディサイズを採用し、Aセグメントに属するハイトワゴンとSUVを融合したクロスオーバーモデルだ。

コンパクトで扱いやすいボディサイズながら、室内空間は広く、日本で人気のコンパクトカーに求められる要素を十分に備えている。さらに、新車価格は2,849,000~3,729,000円と、日本の軽BEVである日産サクラやホンダN-ONE e:に近い価格帯を実現。国のCEV補助金は約47万円となるため、購入時のコストパフォーマンスも高い。

 

今回は、インスター(B1系)について実際の走りや使い勝手などを通じて、その魅力を詳しく評価・解説する。

まるでピクセルアート!?インスター(B1系)のデザインとボディサイズ

個性的で親しみやすいデザインと、扱いやすいボディサイズが魅力

ヒョンデ インスターの車両の全景画像

インスターは、ハイトワゴンとSUVを融合したクロスオーバーモデルである。日本の軽自動車でいえば、スズキ ハスラーやダイハツ タフトをイメージすると分かりやすい。

そんなインスターのデザインは、驚くほど個性的でありながら、どこか愛らしさも感じさせる。ベースとなっているのは、アイオニック5などにも採用されている先進的な「パラメトリックピクセル(Parametric Pixel)」デザインだ。ピクセルアートを思わせる造形は完成度が高く、2015年公開の映画「ピクセル」を連想させる世界観に仕上がっている。

ヒョンデ インスターのフロントフェイスの画像

パラメトリックピクセルは車両各部に取り入れられており、とくにフロントのウインカーやリヤコンビネーションランプが印象的だ。四角いピクセルデザインの下部には円形モチーフも組み合わされており、非常に個性的なデザインとなっている。ひと目でインスターと分かる存在感があり、夜間にはその個性がより際立つ。

ヒョンデ インスターのリヤエンドの画像

さらに、大きく張り出したフロント・リヤフェンダーは、力強くタフな印象を演出。とくにリヤビューは台形を強調したデザインとなっており、どっしりとした安定感を感じさせる。

ヒョンデ インスターの内装:インパネデザインの画像

一方、独創的なエクステリアに対し、インテリアは比較的オーソドックスなデザインだ。パラメトリックピクセルを強く感じさせる演出は少ないものの、水平基調で丸みを帯びたインパネによって、落ち着きのあるやさしい雰囲気にまとめられている。

ヒョンデ インスターの内装:メーターの画像

メーターには10.25インチの大型液晶ディスプレイを採用し、視認性は良好だ。センターディスプレイも同じく10.25インチで、センターコンソール上部に配置されている。

印象的だったのは、大型ディスプレイを採用しながらも、エアコンなどの操作系には物理スイッチを残している点である。近年はタッチパネルによる操作が主流となっているが、インスターはあえて物理スイッチを採用した。個人的には、走行中に揺れる車内で利き手ではない左手を使い、小さなアイコンを操作することにストレスを感じる場面も多かった。そのため、ブラインドタッチで確実に操作できる物理スイッチは使い勝手がよいと感じた。

コンパクトながら広い室内空間

ヒョンデ インスターの内装:運転席の画像

インスター(ラウンジ)のボディサイズは、全長3,830×全幅1,610×全高1,615mmである。全長・全幅ともに軽ハイトワゴンよりひと回り大きく、そのぶん室内空間にも余裕がある。

ヒョンデ インスターの内装:後席の画像

とくに横方向のスペースはゆとりがあり、フラットフロアを採用した後席も十分な居住性を確保している。また、全幅は1,610mmと5ナンバーサイズ(1,695mm)以内に収まっているため、日本の狭い道路でも扱いやすいサイズ感だ。

乗車定員は4名でスライドドアは備わらないものの、Aセグメントのコンパクトハイトワゴンであるスズキ ソリオに近い使い勝手という印象を受けた。

ヒョンデ インスターの内装:荷室の画像

国内のAセグメントにはBEVの選択肢がほとんどない。そのため、「日産サクラやホンダN-ONE e:では少し小さい」「もう少し広いBEVが欲しい」というユーザーにとって、インスターは有力な選択肢になるだろう。

ヒョンデ インスターの内装:フルフラットにした時の画像

スライドドアと小回り性能は気になるポイント

一方で、日本市場では弱点になりそうな部分もある。

まず挙げられるのが、両側スライドドアを採用していないことだ。国内では軽スーパーハイトワゴンが高い人気を集めており、Aセグメントではトヨタ ルーミーがスライドドアを武器に販売台数を伸ばしている。

そのため、スライドドアを備えないインスターは、軽BEVとの差別化は図れるものの、Aセグメントのハイトワゴンとして見ると、この点が購入を検討する際の判断材料になる可能性がある。

もう一点、気になったのが最小回転半径だ。

試乗時に駐車枠へ入れようとした際、想像以上に大回りとなり、一度切り返しが必要になった。諸元表を確認すると、インスターの最小回転半径は5.3m。近いボディサイズのスズキ ソリオが4.8mであることを考えると、その差は小さくない。

コンパクトなボディサイズから軽快な取り回しを期待していただけに、狭い場所ではやや扱いづらさを感じる場面があった。

インスターはコンパクトだが、航続距離は十分

インスター(B1系)の航続距離とバッテリー容量

ヒョンデ インスターの給電口の画像

コンパクトなボディのインスターだが、一充電走行距離(WLTCモード)は十分な性能を備えている。

グレードによって搭載する駆動用バッテリーの容量は異なるが、今回試乗した上級グレード「ラウンジ」は49.0kWhのバッテリーを搭載し、一充電走行距離は458km(WLTCモード)を実現している。

一方、乗用軽BEVで最も長い航続距離を誇るホンダN-ONE e:は、29.6kWhのバッテリー容量で295km(WLTCモード)となる。両車を比較すると、その差は大きい。

インスターはコンパクトBEVでありながら、街乗りを中心としたシティコミューターにとどまらず、ロングドライブにも十分対応できる実力を備えている。

参考値として、他のEV車も含めた電費は、以下のとおりだ(カタログ値から算出)。

  • インスター(ラウンジ)電費:約9.4km/kWh
  • N-ONE e電費:約10.0km/kWh
  • サクラ電費:約9.0km/kWh

インスターの車重は、軽BEVと比べて約250kg重い。しかし、電費は軽BEVと同等レベルを実現していることから、電動パワートレインの効率は高いと考えられる。

また、インスターは水冷式のバッテリーシステムを採用しており、優れた充電性能も備えている。

インスターは穏やかで運転しやすい

ヒョンデ インスターの走行性能

ヒョンデ インスターのエンジンルームの画像

街中では十分な動力性能を発揮。高速域ではやや物足りなさも

今回試乗したのは、最上級グレードの「ラウンジ」だ。

搭載されるモーターは、最高出力115PS(85kW)、最大トルク147Nmを発生する。車重約1,400kgということを考えると、スペック上はやや控えめな印象を受ける。

試乗前にこの数値を確認していたため、正直なところ、力強い加速にはあまり期待していなかった。しかし実際に走らせてみると、モーターは瞬時に最大トルクを発生する特性もあり、想像以上にスムーズで気持ちのよい加速を見せる。街中での走行であれば、動力性能に不足を感じることはない。

一方、高速道路で一気に速度を上げる場面では、115PSという出力もあって、速度が高まるにつれて加速の伸びはやや穏やかになる。もう少し高速域で力強さが続けば、よりスポーティな走りが楽しめると感じた。

日本向けに穏やかなアクセルレスポンスを採用

インスターのアクセルレスポンスは、日本市場向けに穏やかなセッティングへ変更されている。そのため、ガソリン車から乗り換えても違和感なく運転できるだろう。

一方で、BEVならではの力強い発進加速を期待するユーザーには、ややおとなしい印象を受けるかもしれない。BEVらしい瞬発力をもう少し積極的に味わえるセッティングでもよかったように感じるが、このあたりは好みが分かれるポイントといえる。

回生ブレーキの調整機能も搭載

インスターには、回生ブレーキの強さを調整できるパドルが装備されている。

アクセル操作だけで減速から停止まで行えるワンペダルドライブ機能「i-PEDAL」も備えているため、一見すると不要にも思える装備だ。しかし、ワンペダル操作による加減速が苦手なドライバーにとっては、回生ブレーキの効きを細かく調整できるこの機能は使い勝手がよい。

ちなみに、インスターは一般的なシフトレバーを採用していない。シフト操作はステアリングコラム右側のレバーで行い、前方へ回すとドライブ、後方へ回すとリバース、レバー先端のボタンを押すとパーキングとなる。

最初は少し慣れが必要だが、操作自体はシンプルで、一度慣れてしまえば違和感なく扱える。

ヒョンデ インスターのハンドリングや乗り心地

軽BEVや国産Aセグメント車を上回る上質な乗り心地

インスターは、日本市場向けにサスペンションをやや柔らかめにセッティングしている。

リヤサスペンションにはトーションビーム式を採用していることもあり、路面状況によってはタイヤからゴツゴツとした感触が伝わる場面もある。しかし、全体としての乗り心地は快適で、軽ハイトワゴンや国産Aセグメントのハイトワゴンを上回る上質さを感じた。

やや大きな路面の凹凸を通過しても突き上げ感は抑えられており、車両姿勢が乱れることなくスムーズに走り抜ける。乗り味はややソフトながらもしっかりと芯があり、質感の高さが印象的だった。

重心の低さを生かした安定感のあるハンドリング

ハンドリング性能も優れている。

BEVは床下に大容量かつ重量のある駆動用バッテリーを搭載するため、ガソリン車に比べて重心が低くなりやすく、運動性能の向上につながる。インスターもこのメリットを十分に生かしており、コーナリングでは高い安定感を見せた。

全高はやや高めながら、車体のロールは適度に抑えられ、フラットな姿勢のままコーナーを駆け抜ける。その走りからは、ワンランク上のクルマに乗っているような上質感が感じられた。

一方で、ハンドリングはスポーティな機敏さを追求したタイプではない。ステアリング操作に対する車両の反応は素直で、ドライバーのイメージどおりに車両が動くため、安心感を持って運転できる。

ゆったりと景色を楽しみながら走るようなシーンでも心地よく、日常使いからロングドライブまで快適に楽しめるハンドリングに仕上がっている。

インスターのお勧めグレードは「ラウンジ」、「ボヤージュ」

インスターのグレード選び

インスターは、BEVならではの機能が充実している。

全グレードに、V2H(Vehicle to Home)や室内V2L(Vehicle to Load/100V AC・最大出力1,360W)、室外V2L(Vehicle to Load/100V AC・最大出力1,360W・コネクター付)、緊急時SOSコールなどを標準装備しており、非常に実用性の高い装備内容となっている。

一方で、グレード選びでは注意したいポイントがある。

エントリーグレードのカジュアルとボヤージュLは、優先順位を下げてもよいだろう。これらのグレードには、以下のような先進安全装備・運転支援機能が装備されていないためだ。

  • 前方衝突防止アシスト(車両/歩行者/自転車搭乗者/交差路対向車)
  • ブラインドスポットコリジョンアボイダンスアシスト(BCA)
  • リヤクロストラフィックコリジョンアボイダンスアシスト(RCCA)
  • 後方駐車衝突防止アシスト(PCA-R)
  • 安全降車ワーニング

近年は先進安全装備を重視して車種を選ぶユーザーも多い。そのため、これらの装備が省かれているグレードは、やや選びにくい印象だ。

その結果、おすすめグレードとして残るのがボヤージュとラウンジである。

 

ラウンジには標準装備されるものの、ボヤージュには設定されていない主な装備は、以下のとおりだ。

  • 17インチアルミホイール
  • 200Vケーブル
  • 電動スライド式サンルーフ
  • アンビエントムードランプ
  • 前席シートベンチレーション
  • スマートフォンワイヤレスチャージ
  • デジタルキー[NFCカードキー付]
  • インタラクティブピクセルライト

この装備差により、ラウンジの価格はボヤージュより22万円高い3,575,000円となる。

ラウンジは快適装備や上質感が充実しているものの、日常使いにおいて必須といえる装備ばかりではない。豪華装備よりも価格を重視するのであれば、ボヤージュがおすすめグレードとなる。

一方、コンパクトBEVであっても上質な装備やラグジュアリー感を求めるのであれば、ラウンジがおすすめだ。このクラスでは珍しく、シートベンチレーションを標準装備している。暑い季節でも快適性を高めてくれる装備であり、魅力のひとつといえる。

また、「クロス」はSUVテイストをさらに強めた個性派モデルである。専用のエクステリアパーツを装着しているため、価格は3,729,000円とやや高めだ。装備内容はラウンジとほぼ共通しているため、クロスならではのデザインに魅力を感じるのであれば有力な選択肢となる。一方、装備を重視するのであれば、ラウンジを選べば十分だろう。

すでに激安、神コスパ中古車が流通!

インスターのリセールバリューを予想

デモカーとして使用されていたと思われるインスターの中古車が、少数ながら流通し始めている。

2025年式ラウンジの中古車相場は約270~290万円。当時の新車価格に対する中古車価格の割合は約75~81%となっており、2026年時点では、1年落ちで約70~90万円値下がりしている計算だ。

インスターは新車でも価格競争力の高いモデルだが、中古車になるとさらにコストパフォーマンスの高さが際立つ。

一方で、リセールバリューについては注意が必要だ。

BEVは、新車価格から補助金相当額を差し引いた価格が実質的な価値として評価される傾向があり、その影響で中古車価格が下がりやすいケースがある。インスターもこうした傾向を受け、リセールバリューはやや低めとなっている。

一度中古車相場が下がると、その価格帯を基準に相場が形成される可能性もあるため、今後も高いリセールバリューは期待しにくいだろう。

もっとも、購入時には補助金を活用できるため、実質的な負担はある程度抑えられる。ただし、数年以内の短期間で乗り換える予定がある場合は、売却時の価格も考慮したうえで購入を検討したい。

課題もあるが、一度乗ると魅力にハマる完成度

まとめ

インスターは、コンパクトBEVでありながら、小回り性能やスライドドアの不採用など、日本市場では気になるポイントもある。しかし、それらを差し引いても、クルマとしての完成度は非常に高い。

個性的なデザインは所有する満足感を高め、458km(WLTCモード)の航続距離や質の高い走行性能も大きな魅力だ。一度試乗すると、その完成度の高さに引き込まれるユーザーも少なくないだろう。

さらに、価格競争力の高さも見逃せない。軽BEVでは航続距離や室内空間に物足りなさを感じ、購入を見送っていた人にとって、有力な選択肢となる1台である。

国のCEV補助金は比較的控えめな設定となっているものの、充実した装備や実用性を考えれば、その価値は十分に高い。軽BEVではカバーしきれない航続距離や室内の広さ、走行性能を備えており、満足度の高いモデルに仕上がっている。

現在の国産BEV市場では、Aセグメントの選択肢は限られている。その空白を埋める存在として、インスターは高い競争力を備えた1台といえる。国産メーカーにも、このカテゴリーで魅力的なBEVの登場を期待したいところだ。

ヒョンデ インスター新車価格

グレード

価格

駆動用バッテリー容量

航続距離(WLTC)

カジュアル

2,849,000円

42.0kWh

427km

ボヤージュL

3,135,000円

49.0kWh

477km

ボヤージュ

3,355,000円

49.0kWh

477km

ラウンジ

3,575,000円

49.0kWh

458km

クロス

3,729,000円

49.0kWh

393km

ヒョンデ インスター航続距離、電費、ボディサイズなどスペック

代表グレード

ラウンジ

全長×全幅×全高

3,830mm×1,610mm×1,615mm

ホイールベース

2,580mm

最低地上高

145mm

最小回転半径

5.3m

荷室容量

280L

車両重量

1,400kg

モーター型式

EM08

モーター最高出力

85kW(115ps)/5,600~13,000rpm

モーター最大トルク

147Nm/0~5,400rpm

一充電走行距離(WLTCモード)

458km

総電力量(バッテリー容量)

49.0kWh

電費(航続距離÷バッテリー容量)

約9.4km/kWh

動力用主電池種類

リチウムイオン

駆動方式

後輪駆動(RWD)

サスペンション型式

前:ストラット式 後:トーションビーム式

タイヤサイズ(前後)

205/45R17

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員