この記事の目次 CONTENTS
想像を超えた広大な室内、使い勝手で大ヒットした初代フィット
パキパキしたスポーティ系から、癒し系へ大きくイメージチェンジ
安全運転にも貢献する視界の良さ
3代目フィットと同等の室内スペースと使い勝手維持
トヨタとの燃費争いから撤退? 
進化したホンダセンシング
ホンダ フィットの選び方
ホンダ フィット価格、スペック

ライター紹介

クルマ評論家 CORISM代表

大岡 智彦 氏

CORISM編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポートが得意技。さらに、ドレスアップ関連まで幅広くこなす。最近では、ゴルフにハマルがスコアより道具。中古ゴルフショップ巡りが趣味。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員

想像を超えた広大な室内、使い勝手で大ヒットした初代フィット

ホンダは、人気コンパクトカー「フィット」をフルモデルチェンジし発売を開始。新型フィットは、今回のモデルで4代目となっている。

この4代目新型フィットは、2019年秋に発売を予定していた。
ところが、先に発売された軽自動車のN-WGNに、ブレーキ系のリコールが発生。同様の部品を使う新型フィットは、急遽対策に追われる。
その結果、大幅に発売日が伸び、2020年2月となった。

この2020年2月は、奇しくもライバル車トヨタ ヤリスの発売日とほぼ同じになってしまった。

初代フィットは、コンパクトカーの概念を大きく変えるモデルだった。

ホンダのM・M(マン マキシマム・メカ ミニマム)思想を具現化したモデルとして、2001年に登場した。
M・M思想に基づき、センタータンクレイアウトを採用。ライバル車を圧倒する広い室内空間を持ち、多彩なシートアレンジを実現した。

ホンダらしいプロダクトアウト的商品だったこともあり、初代フィットは、即座に大ヒットモデルとなる。
当時、カローラから33年も続いていた新車販売ランキング首位の座を奪ったほどだ。

2007年には、2代目が登場。キープコンセプトで、初代フィット同様ヒットモデルとなる。

大きくつまずいたのが、2013年に発売された3代目だ。
発売直後から、リコールを繰り返してしまった。
その結果、顧客の信用を失い、販売台数は伸び悩む。

リコールだけでなく、従来のフィットから大きく変更されたデザインも、マーケットにあまり評価されなかったのも理由のひとつだった。

パキパキしたスポーティ系から、癒し系へ大きくイメージチェンジ

不評だった外観デザインということもあり、4代目フィットの外観デザインは、大幅に変更されている。

スポーティさを強調するシャープなキャラクターラインが印象的だった3代目のデザインは、一新され全く異なる癒し系デザインへと変更された。
4代目では「親しみ」「安心感」「走り」をキーワードに、だれからも愛されるデザインを目指した。

クルマ全体にわたるシームレスなサーフェスと、シンプルでありながらぬくもりを感じさせるフロントフェイスで「親しみ」を表現。車内からも車外からも「包まれている安心」が感じられるデザインとした。

フロントフェイスは、存在感の強いグリルをやめたことで、フロント全体にシンプルで穏やかな印象を与えている。
そのうえで、人の目に相当するヘッドライトは、つぶらな瞳を思わせるデザインとした。

こうしたヘッドライトとグリルレスデザインにすることで、親しみやすさを表現。
このフルLEDヘッドライトには、プロジェクタータイプを採用しており、ハウジングをブラックアウトし、瞳のイメージを強調している。

ボディサイドのデザインは、シンプルさにこだわった。キャラクターラインを初めとするデザイン要素を限界まで減らし、塊そのものの造形美を率直に表現している。
全体的にスッキリとした印象を受けるのは、こうしたデザインが施されているからだ。

リアビューは、塊感の強い台形フォルムにすることで、どっしりとした低重心な安定感を生み出している。

また、リアウインドウやリアコンビネーションランプを、ボディーパネルとの段差が少ないシームレス表現し、塊感をさらに強調した。

安全運転にも貢献する視界の良さ

インテリアデザインは、「明るく」「楽しく」「気持ちよく」を基本として開発された。
外観デザイン同様にシンプルにまとめられている。

高く評価したいのは、視界の良さだ。

Aピラーを独自の技術で極細化。これにより、死角が大幅に減減少、同時に開放感ある視界を作り出している。
死角が減ったということは、安全運転にも貢献する。同時に、運転が苦手な人でも運転がしやすくなるメリットもある。

また、バイザーレスデザインになったことで、メーターには7インチフルカラー液晶パネルを採用。

液晶メーターになったことで、数多くの情報が表示することができるようになったのだが、新型フィットではデザイン同様に徹底的に情報を選択してシンプル表示にすることができる。

たしかにシンプルで見やすいのだが、他の情報を得ようとすると、表示させるための操作が必要になるので一長一短な印象だ。

そして、新型フィットでは心地よさを重視するため、シートも新開発されている。
新開発のボディスタビライジングシートを採用。背中からお尻にかけしっかりと支えながら、包み込むような柔らかさを実現した。

新世代シートフレームも初採用。
座面パッドは従来モデルに対し30mm以上厚くし、パッドの硬度を下げることでソフトな着座感を実現し心地よい座り心地を実現した。

3代目フィットと同等の室内スペースと使い勝手維持

歴代フィットは、フルモデルチェンジ毎に新開発のプラットフォーム(車台)使っていた。
しかし4代目では、3代目のプラットフォームをキャリーオーバーし、改良して使用している。

そのため、3代目より使い勝手や室内の広さ面で大幅な進化はない。

それでも3代目はクラストップレベルの広さと使い勝手を誇っていて、現在でもそれを超えるモデルはない。そのため、4代目もクラストップレベルの広さと優れた使い勝手をもつ。

使い勝手面で向上したのは、センターコンソール部分に設置したフレキシブルアタッチメントテーブル。鞄などを気楽に置ける。

リヤシートはユーティリティーモード、ロングモード、トールモードなどの3代目フィットがもっていた機能は、4代目フィットも継承している。

また、細かいところでは、荷室の開口部は従来に比べて幅を拡大。荷物の出し入れをしやすくした。
ハイブリッド車の荷室は、メカニズム部分を見直すことで、段差をなくして使いやすくした。さらに荷室アンダーボックスの容量を拡大している。

トヨタとの燃費争いから撤退? 

4代目新型フィットのパワーユニットは、1.5Lハイブリッドと1.3Lガソリンの2タイプが用意された。

1.3Lの直4DOHC i-VTECエンジンは、98ps/6,000rpm、118N・m/5,000rpmの出力で、WLTCモードの燃費はモデルによって19.4km/L~20.4km/L(FF車)となっている。組み合わされるトランスミッションは、新開発のCVTだ。

大きく変更されたのが、ハイブリッドシステムだ。
新型フィットには、先代アコードなどにも搭載されていた「SPORT HYBRID i-MMD」と呼ばれたハイブリッドシステムの発展型が搭載されている。
今回からこの呼称が変更され「e:HEV」となった。

e:HEVは、2モーター式シリーズハイブリッドをベースとした発展形だ。
エンジンは基本的に発電メインでモーターで走行する。
ただし、高速クルージングなどで、コンピュータがモーターで走行するより、エンジンの動力で走った方が効率がよいと判断した場合、エンジン直結で走行する。
このe:HEVを搭載したことにより、新型フィットの燃費は29.4km/L(WLTCモード)という低燃費を実現した。

また、新型フィットに搭載された駆動用モーターは、109ps&253Nm。
日産ノートe-POWERのモーター出力が109ps&254Nmなので、同等レベルの出力をもつ。

ノートe-POWERは、非常にモータードライブ感が強いモデルだ。
大トルクをドンと伝えてきて、モータードライブ車特有の大トルク感がある。

ところが新型フィットは、意外なほどモーター感が少なく、自然なフィールが持ち味。このあたりは好み次第だ。
両車とも比較試乗して、違いを確かめてみるといい。

しかし、このe:HEVを搭載した新型フィットはやや物足りない燃費となった。
新型フィットの燃費は29.4㎞/L(WLTCモード)。ライバル車トヨタ ヤリスの燃費は36.0㎞/L。
20%以上もヤリスを超える燃費値となった。

3代目フィットは、ライバル車トヨタ アクアと世界トップレベルの燃費を競い合っていた。
ところが、新型フィットはヤリスとの燃費争いから撤退。ホンダ側からは、心地よさ重視で、燃費性能の数値にはこだわらなかったとしている。

しかし、従来のホンダは数値にこだわり続けていた。ナンバー1であることが、ホンダの技術力の象徴といえるものだったからだ。それは、モータースポーツでも同様だったこともあり、ナンバー1にこだわり続けるホンダに憧れたファンも多い。

だからこそ、ホンダから「数値にこだわらない」というコメントを聞くと、脱力感でいっぱいになる。

愚直に燃費0.1㎞/L、出力1psとわずかな数値にこだわり続け、ナンバー1を目指すホンダの姿をまだまだ見ていたい。
その姿が多くの感動を呼び、ホンダに憧れを抱くからだ。

進化したホンダセンシング

ホンダの予防安全装備パッケージ「ホンダセンシング」もフルモデルチェンジと同時に進化した。

ホンダセンシングは、従来カメラとミリ波レーダーの組み合わせだった。新型フィットでは、センサーをミリ波レーダーからワイドビューカメラに変更。このカメラと、高速画像処理チップと組み合わせ、より検知能力をアップしている。

この新型となったホンダセンシングは、11種類の機能を備えるサポカーS<ワイド>に対応する。

「ホンダセンシング」は、以下の機能を備えている。
1:衝突軽減ブレーキ<CMBS>
2:誤発進抑制機能
3:後方誤発進抑制機能
4:近距離衝突軽減ブレーキ
5:歩行者事故低減ステアリング
6:路外逸脱抑制機能
7:渋滞追従機能付アダプティブ・クルーズ・コントロール<ACC>
8:車線維持支援システム<LKAS>
9:先行車発進お知らせ機能
10:標識認識機能
11:オートハイビーム

しかしまだ足りない機能もある。
後側方車両接近警報や後退時車両接近警報などは、日常的に使う機能なので、早急に用意したい機能だ。

ホンダ フィットの選び方

新型フィットのバリエーションは、1.3Lガソリン車と1.5Lハイブリッド車があり、5タイプのグレードが設定されている。
合計10グレードあり、全車にFFと4WDの設定がある。

ガソリン車かハイブリッド車か

まず、ガソリン車かハイブリッド車かという選択になる。

ガソリン車に対してハイブリッド車は35万~45万円も高い設定。
この差は、燃費差による燃料費やエコカー減税分を含んでも、取り返すのはなかなか難しい。
単に経済性というだけであれば、大半のユーザーにとって1.3Lガソリン車のほうが経済的だ。

ただ、それだけでクルマを選べない。

環境問題が重視されるなか、あえてガソリン車というのも選びにくい。電動化時代ということもあり、モータードライブの走りも楽しみたい。
などなど、e:HEVの魅力は多い。短期での売却するなら、ハイブリッド車の方がリセールバリューが高い。

個人的には、積極的にハイブリッド車を選ぶと良いと考える。
多少無理してでもハイブリッド車の方が、走りや燃費など満足度が高いからだ。

予算が厳しいのであれば、残価設ローンや、サブスクと呼ばれる「Honda マンスリーオーナー」定額サービスという選択もありだ。

また、数年待って中古車という選択もあり。すぐにでも乗り換えというのであれば、高年式の3代目フィットのハイブリッド車でも満足度は高い。

グレードの選び方

グレードは5タイプある。

エントリーグレードにあたるベーシックは、装備が貧弱なので選択肢から除外。
最上級グレードのリュクスは、本革シートなどコンパクトカーを超えた豪華装備が装備されている。230万円を超える価格だが、装備を考えるとなかなか魅力的だ。

無難なグレード選びというのであれば、ホームかネスということになる。
ただ、この2タイプの間には、それなりに装備の違いがある。

スピーカー数が2と4で違っているほか、撥水シートやプラズマクラスター、LEDフォグライト、アルミホイールの有無などかなり違う。

価格はハイブリッド車のホームが2,068,000円。ネスが2,227,500円と、16万円ほどの違いがある。
この価格差なら、ネスを選んだほうが後々満足度が高いように感じる。

しかし、ネスの価格にあと10万円ほどプラスすると最上級グレードのリュクスが買えてしまう。
そう考えると、価格重視ならホーム。予算に余裕があるなら、クロスターかリュクスという選択がベスト。

そんなこともあり、新型フィットの初期受注では、ホームが47%を占める中、ネスはわずか6%しか売れていない。
クロスター、リュクス、それぞれ14%を占めていることから、ネスまでお金をかけるのなら、クロスターやリュクスまでお金をかけた方がよいと考える顧客が多いと予想できる。

ちなみに、新型フィットのe:HEV、ガソリン車比率は、e:HEVが72%、ガソリン車が28%となった。

新型フィットe:HEVの人気カラーは、プラチナホワイト・パールが24%。プレミアムサンライトホワイト・パールが19%、ルナシルバー・メタリックが11%となっており、ホワイト系の人気が高い。

ホンダ フィット価格、スペック

●フィット1.5Lハイブリッド車価格

・e:HEV BASIC FF:1,997,600円/4WD:2,195,600円
・e:HEV HOME FF:2,068,000円/4WD:2,266,000円
・e:HEV NESS FF:2,227,500円/4WD:2,425,500円
・e:HEV CROSSTAR FF:2,288,000円/4WD:2,486,000円
・e:HEV LUXE FF:2,327,600円/4WD:2,536,600円

●フィット 1.3Lガソリン車価格
・BASIC FF:1,557,600円/4WD:1,755,600円
・HOME FF:1,718,200円/4WD:1,916,200円
・NESS FF:1,877,700円/4WD:2,075,700円
・CROSSTAR FF:1,938,200円/4WD:2,136,200円
・LUXE FF:1,977,800円/4WD:2,186,800円


■ホンダ フィット スペック
代表グレード:フィットe:HEVネス(FF)モード

・ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3,995×1,695×1,540mm
・ホイールベース:2,530mm
・車重:1,200kg
・エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ
・エンジン最高出力:98PS(72kW)/5,600-6,400rpm
・エンジン最大トルク:127N・m(13.0kgf・m)/4,500-5,000rpm
・モーター最高出力:109PS(80kW)/3,500-8,000rpm
・モーター最大トルク:253N・m(25.8kgf・m)/0-3,000rpm
・WLTCモード燃費:27.4㎞/L
・最小回転半径:5.2m