世の中にはたくさんの中古車情報誌があります。21世紀の現在はデジタルカメラで写真を撮り、PCを使ってページを組んでいたりします。おかげで、中古車情報誌の制作時間は大いに短縮されたそうです。
 
このお話は、そんな21世紀がもうすぐに思われていた90年代後半のお話です。

この記事の目次 CONTENTS
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1.それはある中古車雑誌編集部の出来事でした
2.それから数年後・・・
3.そして、白いクラウンの行く末は?

1.それはある中古車雑誌編集部の出来事でした

あの頃の中古車雑誌は、ポジフィルムのカメラ(銀塩カメラ)で写真を撮り、人間がレイアウトをくみ上げページを作っていました。

それは締め切り間際の出来事。突然、情報掲載を申し込んできた中古車屋さん。カメラマンと編集者が急いでお店に行き、取材を終えて編集部に帰ってきました。

「いやぁ、突然、載せてくれって行ってくるわりには、儲かっている感じのお店だったね」
「でも、なんだか不思議な感じがしたんだよね」
深夜の編集部では昼間の仕事についてカメラマンと同行した編集者が、仲間たちといろいろ語っていました。
なぜ深夜にそんなことを?理由は簡単で、撮影してきたフィルムが現像されるのを待っていただけなんですけれどね。

「お疲れ様です!現像があがりました!」
編集部のバイト君が現像の終わったフィルムを抱えて戻ってきたとき、それまでだらけていた編集部の雰囲気は一変しました。何しろこのポジフィルムを使ってページを作れば今回の仕事は終了なのですから。
データをまとめ始める編集者、デザインに取りかかろうとするデザイナー、カメラマンはどのカットがかっこいいのか、フィルムのチェックを始めました。

そのときです。
「何じゃこりゃ!」
フィルムチェックをしていたカメラマンの叫び声が、編集部中に響き渡りました。
「どうしたの?」
「どうでもいいから、この写真を見てくれよ!」
それまで雑談やらエロ話をし、ピンク色に顔が染まっていたカメラマンの顔から血の気が引いています。
「どうしたの?どうしたの?」
次々と編集部にいた人がルーペ(ポジフィルムをチェックする道具)でフィルムを覗いては、顔色を変えていってしまいます。
「やばいよ・・・」
「俺、何年もこの仕事を続けていたけれど、初めて見たよ」
「どうするのよ、これ」
昼間の取材で撮影してきた1台の白いクラウン。お店の前では何の変哲もなく並んでいた1台なのに・・・。
なぜかフロントガラスに人の顔だけが写っていました。男の人の顔だけが、首から上だけフロントガラスに浮かび上がっています。よく見たくないのですが、その顔の左側だけが・・・。

それは心霊写真だったのです。
「で、どーする?このクルマを外す?」
「外したらページに穴が開いちゃうよ」
「明日の朝までに、印刷所に入れないと本がでないよ」
それまで大爆笑がとぎれなかった編集部に、一瞬にして静寂と沈黙が訪れてしまいました。

誰もが判断に困っていたとき、バイト君がいいました。
「大丈夫でしょ。どうせ小さなカットになっちゃうんだからさぁ」

おっしゃるとおり。そこにいた全員が大きく頷きました。紙面に掲載される写真は35mmフィルムよりも小さくなってしまいます。これはフィルムを10倍に大きくしてみることができるルーペだからわかったことなのですから。
「そうだな。見なかったことにして作業を始めよう!」
編集長の一声で、編集部はいつもの編集部に戻りました。

2.それから数年後・・・

あれから幾年月。中古車雑誌編集部のバイト君も、一人前の編集者として独り立ちしていました。
そんなある日の出来事です。

時は流れ、カメラは銀塩カメラからデジカメに、デザインは人間の手からMacのソフトに移り変わっていました。

またまた、それは締め切り前の出来事だったといいます。

昼間に取材を行ったお店の画像を処理しているオペレーターさんが、いきなり立ち上がってしまいました。
「どうしたの?」

締め切り前の憩いの時間。コンビニで買ってきたアイスクリームをみんなで食べていた、そんな時でした。
「見てくださいよ!編集長!何か凄いことになっちゃってますよ!」
ハーゲンダッツのアイスをぺろぺろしながら、ディスプレイの前に行く編集長。
「これは・・・」
編集部員がみんなディスプレイの前に集まります。
「・・・」
流れる重い雰囲気。

ディスプレイに映し出されているのは白いクラウンです。どこにでもありそうなクルマです。しかし、よく見るとフロントガラスに・・・。
「何年か前にも同じことありましたよね」
その問いかけには誰も声を返しませんでした。
白いクラウンに映し出されている2人の顔。どちらも首から下だけがありません・・・。
また、心霊写真です。

「もしかして、あのときと同じクルマですかね?」
元バイト君がぽつりと言いました。
「アナタの知らない世界じゃないんだから、そんなことある訳無いじゃないの?」
「ですよねぇ」
時は流れていますが2度目の経験です。あのころのような大騒ぎは起きませんでした。
ただ、同じだったのは締め切り前だし早くしなきゃという雰囲気だけでした。

3.そして、白いクラウンの行く末は?

みんなみんな心霊写真のことなど忘れてしまった、冬の日のことでした。

元バイト君はタイアップ取材ということでとある中古車屋さんに取材に来ていました。古くから地元に根付いて仕事をしているというそのお店は、中古車販売以外にも買取りや整備、そして解体なども行っていたのです。

商談スペースで行われる取材。内容は社長へのインタビューです。元バイト君が携わる中古車情報誌が何百冊も壁一面に並べられる中での仕事、カメラマンも元バイト君も緊張しながらインタビューを進めています。
「いやさぁ、オタクの雑誌のおかげでウチも商売繁盛なんだよ、ほんと」
「またぁ、社長もうまいんだから」

そんなインタビューが始まって10分ぐらいの時です。お店の女の子が社長に来客があったと伝えに来ました。
「なんだよぉ、いま取材中なんだから」
「でも、社長ぅ・・・警察の人なんで・・・」
渋々立ち上がる社長。
「スミマセンね。長くこの仕事を続けているおかげで、役所から仕事が舞い込んでくるようになったのですけれど。おまわりだけはムゲにできないもんで」

お店の外に出て行く社長。その姿が向かう先にあるのは、積載車に載った事故車の白いクラウンでした。
たぶん警察関係者と思われる人と社長が何かを話しています。社長が困った顔をして、警察の人がお願いをしています。

それから数分後。積載車から白いクラウンが降ろされ、積載車だけが帰っていきました。
「いやぁ、ごめんごめん」
「どうしたんですか?社長」
「ん?この仕事をしてるとさぁ、いやなこともあるんだよ」
「どんな?」
「あのクルマ、これなんだよ」
社長は胸の前で両手をあわせました。仏様にお祈りするように。
「事故車?」
「それだけならいいんだけど、死亡事故なんだよ。それも3回も起こしてるんだって。でさぁ、引き取り手がいないから解体してくれっておまわりが持ってきたんだけれど・・・」
たしか、13号前に載っているはず。元バイト君はきれいに並んでいる本棚から1冊の中古車情報誌を取り出しました。そこにはあの白いクラウンが確かに並んでいます。

「同じだよ・・・」
画像加工により白いクラウンのナンバープレートは消されていますが、元バイト君はハッキリと覚えています。
積載車から降ろされた白いクラウンがつけているナンバーは42-19。
 42−19。シニイク。

「心霊写真が写っているクルマだからって、このナンバーはできすぎじゃないか?」
編集長がそう言ったことはよく覚えていました。